2014.11.18 御手洗対悪の教祖 【星籠の海 下】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻で描かれていた様々なドラマが繋がりつつある快感が、本作ではさらにパワーアップしている。事件の全容が明らかとなり、さらには星籠の正体も…。事件を仕組んだ犯人目線での物語もあり、事件がどのようにして起こり、どういった考えで隠ぺい工作が行われたのか。新興宗教の教祖が諸悪の根源という描き方をし、その尻尾を捕まえるのが御手洗の役目という流れになっている。
探偵御手洗と悪の教祖の騙し合いのように描かれてはいるが、悪側の魅力が薄いので対決!といった印象はない。作者が描きたかったのは、村上水軍に関する歴史ロマンなのだろう。最後に星籠が大活躍するのを考えると、自分の主張を発表したかっただけのように思えてしまう。
■ストーリー
複数の死亡事件の背後に見え隠れする、ある団体の影―疑惑の究明に動きながら、御手洗潔は事件関係者の大学助教授とともに、幕末に老中首座を務めた福山藩主阿部正弘と、かつて瀬戸内を制した水軍の秘密に迫っていく。そこに、鞆に暮らす革職人一家が襲われる凄惨な事件が発生。これを糸口に、御手洗の推理で炙り出される事件の全容。そして「潮待ちの港」の歴史に秘された奇跡とは―!?
■感想
上巻では様々な物語が別々に動いているように感じていた。が、それが下巻になるとぴったりとパズルのようにはまりこんでいく。ただ、流れ的には想定できたものだ。ミステリーのトリック的にも特別な複雑さはない。
ある夫婦が監禁された事件にしても、その結末を読むと、なんとなくだが事件の流れが想像できてしまう。事前に描かれた伏線が効果的すぎて、あまり驚くということがない。ラストで大どんでん返しがあるわけでもないので、ミステリーとしての面白さは少ないかもしれない。
本作は何と言っても歴史ロマンに力が入れられている。村上水軍の話から始まり、黒船襲来時に対抗手段として隠された秘密兵器の存在。本作に描かれていることすべてが事実だとしたら、かなり衝撃的だ。技術的に未熟な日本が、世界に先駆けてある特殊な兵器を作ることができた。
星籠という名前からは到底想像できるものではない。ただ、御手洗の滑らかな弁舌を読まされると、あたかも真実のように感じてしまうから不思議だ。御手洗というフィルターを通すことで、どんなに突拍子もないことも、正しくしてしまうキャラの個性はすばらしい。
御手洗と新興宗教の教祖パクの対決。イメージしたのはホームズとモリアーティ教授だが、そうはならなかった。狡猾なパクの犯罪の証拠を掴み、逮捕するために御手洗がひそかに動き回る。対してパクの動きはというと…。
悪としての極悪さが弱く、事件に関わってはいるが、そこまで目くじらを立てるほどの存在か?と違和感をもった。パク目線や、パクとの直接対決がないため、パクのキャラ付けができないまま物語は終わっている。御手洗と警察の言葉だけでパクの凶悪さを表現するのは物足りないと思ってしまった。
歴史にロマンを求める人は楽しめるだろう。
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