聖なる怠け者の冒険 


 2014.3.17    誰もが本当は怠けたい 【聖なる怠け者の冒険】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

京都の街を舞台にした、ヘンテコなヒーローの物語。タヌキのお面を付けマントに身を包んだヒーロー「ぽんぽこ仮面」。跡継ぎとして目をつけられた男、小和田君。この小和田君がなんともゆるく、怠けることを何よりも楽しく思う男。ぽんぽこ仮面の正体を探る者、捕まえようとする者、のんびりすごす者、恋人と週末をすごす者。多種多様な者たちが京都を舞台にして暴れまわる。

そんな中で、小和田君だけがひとり怠けることだけを追い求めている。強烈なのは、ぽんぽこ仮面を捕まえようとする組織の存在だ。かなり凶行な手段に出るが、実はその組織も上からの命令で仕方なくやっていた。そして、その上の組織ももっと上から…。数珠つなぎに続く最後には…。意外な面白さがある。

■ストーリー

一年ほど前からそいつは京都の街に現れた。虫喰い穴のあいた旧制高校のマントに身を包み、かわいい狸のお面をつけ、困っている人々を次々と助ける、その名は「ぽんぽこ仮面」。彼が跡継ぎに目をつけたのが、仕事が終われば独身寮で缶ビールを飲みながら「将来お嫁さんを持ったら実現したいことリスト」を改訂して夜更かしをすることが唯一の趣味である、社会人二年目の小和田君。当然、小和田君は必死に断るのだが…。宵山で賑やかな京都を舞台に、ここから果てしなく長い冒険が始まる。

■感想
小和田君は怠けたい。特に週末は怠惰にすごしたい。そんな小和田君と困った人を助けるために暴れまわるぽんぽこ仮面は対極の存在だろう。小和田君の徹底した考え方は尊敬すら覚えてしまう。土日をどのようにすごすか。一日中寝るも良し、妄想にふけるも良い。

こう書くと、小和田君はとんでもなくダメ人間のような気がするが、それなりに怠け者として一本芯が通っているので、格好良く見えてしまう。小和田君を外に連れ出そうとする先輩の存在や、ぽんぽこ仮面の正体を暴きたい週末探偵など、小和田君を巻き込む人の存在もまた興味深い。

作者の作品はどことなくゆるい。そして、このゆるさが読んでいて心地良くなる。休みの日を怠惰にすごしたい。皆仕事などせずに、怠惰な日常を送りたい。上からの命令で仕方なく、ストレスで胃をキリキリ痛めながら仕事をしている。怠けることが悪いという考えを根底から覆すような流れがすばらしい。

誰もが怠けたい。充実した土日とは、怠け放題できる日々だという考えは、最後まで突き通されている。宵山で巻き起こる様々な事件は、小和田君からすれば、ただ巻き添えをくらっただけのこと。同情心すらわいてくるから不思議だ。

宵山での幻想的な出来事は、「宵山万華鏡」に通じるものがある。というか、「宵山~」を読んでいればより楽しめるだろう。さらには宵山に参加したことがあるならば、さらに楽しめることだろう。ぽんぽこ仮面の活躍よりも、宵山の幻想的な雰囲気に惹かれてしまう。

偽ぽんぽこ仮面となった小和田君が連れてこられた場所は…。宵山と神。最後にはドタバタがあり、いつの間にかぽんぽこ仮面問題が解決しているのが良い。結局は、皆わけがわからず、上からの命令で動いていただけだということだ。

幻想的な宵山で、タヌキのお面を被った男が暴れまわる。シュールすぎる。



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