宵山万華鏡  


 2013.12.2     幻想的な祇園祭 【宵山万華鏡】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

祇園祭になじみがある人ならば、かなり楽しめることだろう。宵山で巻き起こるファンタジーあふれる出来事。連作短編集ではあるが、短編ごとに雰囲気がガラリと変わる。作者が得意な、非モテ男が知人たちに騙され、その様を奇妙ながら面白おかしく描いた短編もあれば、ちょっとしんみりするようなシリアス調の短編もある。ファンタジーあふれる展開は、宵山の雰囲気と相まって、より幻想的な印象を残している。

細かいことだが、作者の作品を読んでいる人ならば楽しめる小道具が登場するのも良い。赤玉ポートワインやビールのことを麦酒と呼んだり。祇園祭を経験していれば、また違った読み方ができるのかもしれないが、知らない者からすると、幻想的な祭りだと勘違いしてしまう。

■ストーリー

一風変わった友人と祇園祭に出かけた「俺」は“宵山法度違反”を犯し、屈強な男たちに捕らわれてしまう。次々と現れる異形の者たちが崇める「宵山様」とは?(「宵山金魚」)目が覚めると、また宵山の朝。男はこの繰り返しから抜け出せるのか?(「宵山迷路」)祇園祭宵山の一日を舞台に不思議な事件が交錯する。幻想と現実が入り乱れる森見ワールドの真骨頂、万華鏡のように多彩な連作短篇集。

■感想
祇園祭に出かけた「俺」が知人に騙される短編は、いつもの作者の雰囲気そのままだ。知人たちが演出する宵山ファンタジーに巻き込まれ、右往左往する。このまま「俺」が主人公の短編が続くと思いきや、様々な視点の短編が続く。

「俺」を騙す側からの短編が続き、困惑しながらも面白おかしい雰囲気は読んでいて楽しくなる。今どきの若者らしくなく、変に丁寧な言葉づかいも、物語に落ち着きを生み出しつつ、ギャグの切れ味が増幅する効果がある。

純粋にコメディ系の短編が続くのかと思いきや、後半はシリアスファンタジーが続く。連作短編なので、別の短編のエピソードの裏話や、後日談などが語られているのが良い。祇園祭はよく知らないが、祭りの一般的なイメージどおり、人が多く、幻想的な雰囲気というのは伝わってきた。

何度も宵山を繰り返す短編では、ありがちなパターンかもしれないが、言いようのない悲しみを感じてしまった。ついさっきの短編との印象の違いに驚くと共に、最後に壮大なオチがあるのでは?と考えながら読んでしまった。

幻想と現実が入り混じる。最後はまさに幻想一辺倒だが、その幻想の描写がすばらしい。現実的ではなく、別の短編で幻想の裏話を描いておきながら、あえて幻想をより幻想的に描く。まじめに整合性を求めようとすると混乱してしまう。

祭りという場においては、どんな不思議なことが起きてもおかしくはない。まして、小さな子供にとっては、祭りというだけで、すでに十分幻想の世界におちいる下地は作られているのだろう。子供心に戻り、幻想に入り込むのが正しい楽しみ方だ。

短編のトーンが前半と後半で激変するのには驚いた。




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