桜庭一樹短編集 


 2014.11.21      まとわり付くようなねっとり感 【桜庭一樹短編集】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

作者らしい短編ばかりだ。ただ、読後感がほとんど何もない短編もある。当たり外れが大きいというか、読んでいてまったく心に残らない短編もある。過去の作者の作品の元ネタとなったような短編あり、いつもの作者の雰囲気そのままに不思議な世界の作品あり。好みは大きく分かれることだろう。

自分的には圧倒的に「冬の牡丹」が好きだ。「私の男」のパイロット版的作品というとおり、主役の年齢が上がってはいるが、それだけに、別の面白さが付け加えられている。「モコ&猫」も、良いのだが、男の極端な気持ちが、あまりに気持ち悪いため、拒否反応を示す人もいるかもしれない。バラエティに富んでおり、作者の色がでている短編集だ。

■ストーリー

一人の男を巡る妻と愛人の執念の争いを描いたブラックな話から、読書クラブに在籍する高校生の悩みを描いた日常ミステリー、大学生の恋愛のはじまりと終わりを描いた青春小説、山の上ホテルを舞台にした伝奇小説、酔いつぶれた三十路の女の人生をめぐる話、少年のひと夏の冒険など、さまざまなジャンルを切れ味鋭く鮮やかに描く著者初の短編集。

■感想
「モコ&猫」は、油でテカテカ光ったモコという女と、根暗な猫という男の偏執的な恋愛を描いた作品。当然ならが、読者は二人の容姿を変な男と女と想像して読む。AV男優に似ている女がモテるわけがない。コンパで女に手ひどい扱いを受ける男がモテるわけがない。

ただ、物語がすすんでいくと、ふたりがモテるような描き方に変わっているので、頭が混乱してくる。変だけどモテて、そしてお互いのことを気にしつつ、最後にどうなるのか。作者の作品らしいと言えばらしいのだが…。

他の短編はどうもしっくりこなかった。あまり印象に残っていないというのだろうか。言い換えると「冬の牡丹」の印象が強すぎるため、他がかすんでしまったと言えなくもない。三十路を過ぎていき遅れた美女と、ボロアパートの隣に住む大家の老人。

ふたりの関係は、まさに「私の男」の物語に酷似している。そして主人公の女がへんくちゃな妹と母親に家庭の主導権を握られ、微妙な立場で日々を過ごすことの悲しさが強烈に伝わってきた。女は美しくても負け組になる可能性がつらつらと描かれている。

初老の大家との関係も面白い。恋愛感情や肉体関係があるわけではない。が、同じ空気感をもつ二人。この手の作品を描かせると作者はすばらしい力をだす。モラトリアムな時期を過ごすふたりが、日々を悲しんでいるようでありながら、充実しているようでもある。

頭がよく、美しい女でありながら、どこか不幸な女。厳格な父親との関係や、同じ女として妹や母親との軋轢など、女性作家ならではの描き方が新鮮であり、強烈な印象を残す。作者はこの手の作品が得意に違いない。

当たり外れの大きい短編集だ。



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