2011.9.8 禁断の愛を超越 【私の男】
評価:3
■ヒトコト感想
花と養父である淳悟との奇妙な関係。時系列的にさかのぼる形となり、冒頭から淳悟と花の関係の不思議さの虜となる。禁断の愛と言えるのかもしれないが、もっと禁断の愛を超越した、生きるためにお互いが離れられない関係に思えてくる。落ちぶれてみすぼらしいが、優雅な男である淳悟。この奇妙な関係がどのようにして作り上げられたのか、さかのぼるにつれ、他者の視点から二人の関係が浮かび上がってくる。すべてを超越したように思える二人の関係は、読んでいると不思議な安心感がある。危うい関係のはずが、強固な二人の関係を読むと、いつのまにか濃厚な二人の世界に入り込んでしまう。
■ストーリー
落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅な男・淳悟は、腐野花の養父。孤児となった十歳の花を、若い淳悟が引き取り、親子となった。そして、物語は、アルバムを逆から捲るように、花の結婚から二人の過去へと遡る。内なる空虚を抱え、愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く
■感想
徐々に明らかとなる禁断の愛。最初はお互いに依存しあう親子が、娘の結婚を機に変わっていく物語かと思った。義父である淳悟の浮世離れした異常さと、離れていこうとする娘。この二人の関係がどのようにして作り上げられたのかが、さかのぼって語られている。そこには娘の結婚相手や、淳悟の恋人など他者の視点から二人を見ることで、二人の異常さが浮かび上がってくる。禁断の愛というありきたりな言葉ではすまされない、お互いの体の一部となってしまった二人。この二人の濃密な世界に、知らず知らずのうちに入り込んでしまう。
物語が進むにつれ、二人の奇妙な関係の正体が見えてくる。普通ならば吐き気をもよおすような異常さなのかもしれないが、二人の関係はそうではない。そうなることが当たり前のように、二人は自然につながっていく。秘密を守るために、さらにお互いが秘密を持ち合う。二人の関係に気づく人もいるが、深く入り込もうとはしない。この世界観の中に入り込むと、自分の感覚が麻痺してくるようで恐ろしくなる。タブーをタブーと感じさせない、必然的な勢いすら感じさせる物語だ。
数々の秘密や、崩壊へ向かうしかない関係に思えたが、本作では先は描かれていない。あくまでも二人の関係がどのようにして作り上げられたかだけを描いている。そのため、さかのぼればさかのぼるほど、異常さの中に、偶然の要素のようなものが見え隠れしてくる。この二人が最後にどうなったのかは、読者は想像するしかない。しかし、ここまで強固な関係を築いた二人が、あっさりと離ればなれになるはずがない。それにしても、こんな世界を描ける作者はどんな経験をしてきたのだろうか。普通の想像力を超える力を感じてしまう。
禁断の愛という一言では言い表せない関係だ。
おしらせ
感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp