2014.4.20 奇抜なメイクの謎のアーティスト 【ROMMY 越境者の夢】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
特殊な叙述トリックの作品だ。奇抜な衣装とメイクで熱狂的人気を得た歌手が殺される。レコーディングスタジオにいた様々な人の証言から、犯人が浮かび上がってくるのだが…。ROMMYの生い立ちや、ROMMYが出会った人々の証言により、読者はROMMYに対してあるひとつのイメージを作り上げることになる。ROMMYが売れないころから支え続けた中村が怪しいのはだれもが考えることだ。が、事件の場には中村の姿はない。
改名というインチキ的な状況はあるにしても、ROMMYを取り囲む人々は奇妙だ。才能はあるが売れない歌手がどのようにして上りつめていくのか。またその過程で周りからどれほど恨みを買うのか。強烈なインパクトはないが、ROMMYの秘密には驚かずにいられない。
■ストーリー
人気絶頂の歌手ROMMYが、絞殺死体となって発見された。ROMMYの音楽に惚れ込み、支え続けた中村がとる奇妙な行動。一瞬目を離した隙に、ROMMYの死体は何者かに切り刻まれ、奇妙な装飾を施されていた―。一体誰が何のために?天才歌手に隠された驚愕の真相とは。新本格の雄、歌野晶午の真髄がここに。
■感想
「葉桜の季節に君を想うということ」的な面白さが微かにある。ただ、驚きの面でいうと、「葉桜~」には到底およばない。ミステリーとしての作法は守られており、ROMMYを囲む者たちの証言から、ROMMYの実情があきらかとなっていく。
「藪の中」的な流れもあるのだが、複数の大きなトリックには驚かされるだろう。ROMMYを殺したのは誰なのか。利害関係が絡む者たちが、それぞれ自分の主張を繰り返す。あざとい大人の計算や、自分本位で守りに入る者たちの哀れな姿ばかりが印象に残っている。
それぞれの登場人物が自分の思いを語る。そこは音楽関係の嫉妬や利権への執着がうずまくドロドロとした世界だ。実力社会であるだけに、才能がある人物は、どんな性格だろうと無条件に売れていく。競争に負けた人物は恨みをもつ。
ROMMYをとりまく状況は、恨みや妬みがありながら、売れる者が強い理論はまかり通ってしまう。正当なようでいて、ものすごく恐ろしい社会だ。ついこの間までいばっていた人が、状況が変わると、途端に落ちぶれていく。さらには、勝ち馬にのるために、あえて屈辱的な状況に耐えなければならない可能性すらある。
叙述トリックとしては良くあるパターンなのかもしれない。が、トリックに途中で気付くことはまずない。本作のメインのトリックが、ROMMYの殺人事件に直接影響をおよぼしているわけではない。ROMMYの日常生活を他者が監察したことの答えがトリックの答えだ。そのため、驚きはあるのだが、衝撃度は少ない。
ROMMYのエキセントリックな性格には様々な理由がある。その一端として叙述トリックがいかされている。ROMMYの熱狂的なファンである中山の存在が、より叙述トリックにはまり込みやすいような流れにもなっている。
ROMMYの正体を知ると、驚かずにはいられないだろう。
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