葉桜の季節に君を想うということ 


 2014.4.3    衝撃的叙述トリック 【葉桜の季節に君を想うということ】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

たくみな叙述トリックだ。物語の本流と回想が入り混じり、他の人物のエピソードも混じる。そのあたり、しっかりと整理されているので、混乱することはないのだが、なぜこんな方式をとっているのかが疑問だった。が、すべてはあるひとつのトリックを成立させるための施策なのだと気づいた。霊感商法を調査する元探偵が様々な危機を乗りこえ、恋愛をし、事件を解決する。

ごく普通の探偵小説風だが、そこには驚きの仕掛けがある。ベースの事件については特別な印象はない。ただ、霊感商法に騙されるという部分が、トリックに多少関係しているというところか。読者の勝手な思い込みをたくみに利用した作品だ。タイトルも騙しの一因になっている。

■ストーリー

「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命の出会いを果たして―。

■感想
心地良い騙され方だ。主人公の成瀬の一人称が”俺”であり、ぶっきらぼうな話し方が多少気になるのだが、実はそれこそが本作の大きなポイントなのだろう。これが、普通に丁寧な会話を繰り返していたとしたら、どこかでこの叙述トリックに気づいてしまうかもしれない。

元私立探偵で女好き、そして、どんな危険もかえりみず前に進む性格。すべてが読者を騙すための仕掛けだ。このトリックに気づいた瞬間は、一瞬はてなマークが頭の中を飛び回った。そして、読み間違いかと思ってしまった。それほど意外なパターンであることは間違いない。

成瀬と麻宮さくらとの甘い恋愛も本作のポイントのひとつだ。さくらの自殺を止めたことから始まる恋愛。頭の中で二人の恋愛シーンを想像するのだが…。まぁ、これもすべてのトリックに気づいた後には、微妙な気持ちになることは間違いないだろう。

世相を反映し、何もわからない老人たちから金をむしり取る悪の霊感商法組織を訴えるために動き出した成瀬。そして、それを助けるさくら。なんだか定番的流れなのだが、定番であればあるほど、なんの疑いもなく読むため、騙されてしまうのだろう。

主人公の成瀬は、危険をいとわない。過去に調査のためにヤクザの組員になったりと、むちゃくちゃなことを平気でやるキャラだ。正義の探偵ではないために、成瀬が調査する悪はさらに悪くなければならない。お決まり通り霊験商法の組織はとんでもなく悪い。

そんな危険な状況に飛び込む成瀬もちょい悪なだけに、物語はよりスリリングな物語となっている。本作の映像化は恐らく不可能だろう。ありきたりな探偵小説を、読み慣れていればいるほど、騙さることは間違いない。

この叙述トリックを早い段階で見抜ける人はいないだろう。



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