王の闇 


 2013.12.20    5人の男たちの壮絶な人生 【王の闇】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

真剣勝負に命をかける5人の男たちのノンフィクション。いずれも戦いに明け暮れる男たちだが、必ずどこかでどん底を味わっている。昔の作品なので、登場する5人はかなり古い人物だ。ただ、ボクサーの輪島やマラソンの瀬古などは、今でも有名人であることは間違いない。彼らがどのようにして人生のピークを味わい、どん底を経験してきたのか

上質な物語のようだが、すべてまぎれもない真実だ。自分が知らない人物だとしても、そのすさまじい人生を読んでいると、浮き沈みの激しい人生に驚愕してしまう。特に悲劇的な終わりをとげたボクサーの大場など、まったく知らなかったが、悲劇のヒーローとして強烈な個性がある。今の若者は知らない選手ばかりだが、そのすさまじい人生を読むと、必ず興味がわいてくるだろう。

■ストーリー

ライヴァルを倒し、記録に挑み、ひたすら戦いつづけることで王座を手にした男たちも、やがてはその頂点から降りざるをえない時がやってくる。彼らの呻き、喘ぎ、呟き、そして沈黙が、今ふたたび「敗れざる者たち」の世界に反響する。久方ぶりに沢木耕太郎が贈る、勝負にまつわる男たちを描いた五つの短篇。

■感想
ボクサー大場の物語はすさまじい。若くして天才と言われ、あっという間に世界チャンピオンとなり、事故死する。大場のことはまったく知らなかったが、頭の中にイメージするのはイケメンでスマートなボクシングスタイルの天才肌ボクサーだ。

マネージャーが語る大場の物語は、ひとりの若者がどのようにしてチャンピオンになり、事故死したのかが赤裸々に語られている。大場本人だけでなく、当時のボクサーたちがどのような生活をしていたかまでが伝わってくる。悲劇のヒーローとしてではなく、生々しい部分も知ることができるのが本作のポイントなのだろう。

マラソンの瀬古とボクサーの輪島は、ある程度予想していたが、山あり谷ありの人生だ。瀬古が追いつめられ、逃げ出したくなるような競技人生を経験していたこと。輪島の晩年はボロボロで無様な醜態をさらしていたこと。それらは自分が子供のころの話だが、今読んでも新鮮に感じてしまう。

どんな優秀な選手であっても、スランプはあり、衰えもある。その時、選手たちはどんな気持ちになるのか。日本中から注目され、結果をだせない時の苦悩は半端ではないだろう。自殺した円谷と瀬古の違いを作者なりに分析しているのも非常に興味深い。

後半の二人はまったく知らない人物だった。そのうちひとりの、相撲、プロ野球、ボクシング、ボウリングに挑戦したアスリートの話は驚かずにはいられない。すべてを趣味で楽しむ程度ならば、驚かない。相撲は幕内直前までいき、プロ野球はテストを受け合格直前までいった。

ボクシングは日本チャンピオンになり、ボウリングはボウリング場でスカウトされるまでになる。おまけに最後はプロレスのレフリーだ。これらすべてをひとりの人間がやりきったというのがすごすぎる。これほど飽きっぽく?多才な人物なのに自分が知らないのは、単純な情報不足なのか、それとも世間ではあまり認知されていない人物なのだろうか…。

他人の壮絶な人生を読むのはやめられない。



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