夏からの長い旅 


 2014.8.19      いつまでも付きまとう過去 【夏からの長い旅】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

最初は些細な放火事件から始まり、最後には自分たちが狙われる衝撃的事実が明らかとなる。何者かにストーキングされている。そのターゲットが自分なのかそれとも恋人なのか。平凡なデザイナーとその恋人が、何者かに狙われることになる。読者は男になにか後ろ暗いことがあるのでは?と考えてしまう。男が過去、戦場カメラマンという職業にあり、そこで死が日常の環境になじんでいた。

二人をつけ狙う人物の目的は何なのか。戦場カメラマンの強烈なプライドと、思いもよらない部分から狙われる恐怖が描かれている。そして、男と恋人の幸せな関係に少しずつ歪が生じていく様が描かれている。殺し屋の類の話ではないが、ハードボイルド臭はすさまじい。

■ストーリー

最愛の女性、久迩子が初めて私の家で夜を過した晩、それは起った。時限発火装置を使った放火であった。警察からは、その周到な手口より愉快犯などではないことを告げられた。フリーの工業デザイナーである私は、同業者から多少妬まれることはあっても、命を狙われるような覚えはない。久迩子においても同様のはずだ。それでは、誰が、何のために…。

そして数日後、第2の事件が起った。その時私は、忘れていた、いや忘れようとしていたあの夏の出来事が鮮明に脳裏に甦った。全ての答えはあの時の1枚の写真にあったのだ―。運命に抗う女のために、下すことのできぬ十字架を背負った男が闘いを挑む、渾身のハード・ボイルド。

■感想
フリーの工業デザイナーである男が、恋人と過ごしているとき、何者かに狙われる。最初は時限発火装置による放火だったのが、恋人の車に英語で警告をペイントし、最後には銃弾が車に撃ちこまれる。狙われていることは明らかだが、思い当たることがない男はどうするのか。

誰にも過去は存在する。胸を張れる過去ではないかもしれないが、人に命を狙われるほど恨まれた覚えはない。となると、男は独自に調査を始める。恋人を守るため、男は自分の人生を振り返る行動に出る。

男の過去が、戦場カメラマンという部分がポイントだろう。戦場カメラマンというと、少し前に流行した特徴的なしゃべりをする人物を思い出す。本作では、戦場カメラマンが常に死と隣り合わせでだということと。それが最もスクープに近づく方法だと語られている。

例え同僚が目の前で敵兵士に狙われようと、助けるために声をだすことはできない。となると、ただ撃たれていく同僚をカメラにおさめるしかない。衝撃的な状況だが、戦場という極限状態ではすべてが許されるのだろう。

後半は男と恋人をつけ狙う存在について語られている。驚きなのは、男だけでなく恋人も共通の理由で狙われていたということだ。人の過去には何が隠されているかわからない。戦場になど縁のないはずの恋人が、なぜ狙われるのか。

戦場カメラマンという過酷な職業と、自分が撮った一枚の写真が、あらゆる関係者に強烈な影響を与える恐怖。その影響力は、何年経とうと決して衰えることはない。殺し屋が登場し、ドンパチやるハードボイルドも良いが、一般人のパターンも良い。

一生付きまとう過去は、恐怖でしかない。



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