2014.1.6 父親の死をどう受け止めるか 【無名】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
作者が父親とすごした最後の数カ月を描いた作品。ある程度の年齢を重ね、平均寿命を考えるとまずまず生きた作者の父親。最後の別れの感動が描かれているだとか、衝撃的な出来事が起きたとかいうことはない。親子関係が順調な家族の中で起こった出来事なだけに、物語としてのインパクトは少ない。印象的なのは、作者が父親と話をするとき、常に敬語だということだ。
他人行儀に感じてしまうのは当然として、どこか高貴な雰囲気すら感じてしまう。入院生活から抜けだしたい父親と、戸惑う家族。父親のためには何をするのが一番なのか。読書家の父親とノンフィクション作家の息子。本人はどう思っているのかわからないが、他人から見ると、すごく似た親子に感じられることだろう。
■ストーリー
一合の酒と一冊の本があれば、それが最高の贅沢。そんな父が、ある夏の終わりに脳の出血のため入院した。混濁してゆく意識、肺炎の併発、抗生物質の投与、そして在宅看護。病床の父を見守りながら、息子は無数の記憶を掘り起こし、その無名の人生の軌跡を辿る―。生きて死ぬことの厳粛な営みを、静謐な筆致で描ききった沢木作品の到達点。
■感想
父親が死ぬ。ただそれは、寿命がつきるようなゆるりとした死だ。父親が倒れ、もしかしたら最後かも、と考える息子の心情とはどのようなものなのか。少しの酒と本さえあれば良い寡黙な父親。父親のことを説明する際には、作者の幼少時代を描かないわけにはいかない。
そこには、貸本屋でマンガを借りたりだとか、家業の浮き沈みなど、時代を感じさせる描写が多々ある。何か大きなインパクトがあるわけではない。静かに、そしてゆっくりと流れる時間の中で、最後の時を迎えようとする父親に対して、作者はある本を作ろうとする。
作者の父親が読書家で、さらには俳句を読んでいたというのがポイントだろう。息子としては父親の創作物に興味があるのは当然だ。物語の後半は、父親の俳句の何を選択し本を作り上げるかが描かれている。恐らく、作者は父親が存命中に本を作り上げたかったのだろうが、そうはならなかった。
俳句という短い言葉のつながりの中に、その人の思いが凝縮されている。俳句の良さがわからない自分にとっては、作者の父親のレベルがどの程度なのかまったくわからない。が、素人まるだしの作品でないことだけはわかった。
年齢を重ねるとある程度、覚悟しなければならない出来事がある。そのひとつが親の死だろう。作者は父親の死の直前まで病院に通い、その状況を細かく描いている。死ぬ直前には、信じられないほど元気になり、このまま完全に回復するのでは?とすら思ったらしい。
本作を読み、いくつかわかったことがある。肺炎が死をまねく病だということ。そして、老人にとっては、入院が何よりもつらいということ。さらには、介護する周りの者たちにも、それなりの覚悟が必要だということ。自分はまだ経験していないが、親の死というのは、どういうものか、少しだけわかった気がした。
父親の死をどのようにとらえるのか、心構えは必要だろう。
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