黒書院の六兵衛 上 


 2014.3.24    江戸城に居座る謎の武士 【黒書院の六兵衛 上】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

明治維新のさなかに巻き起こるミステリー?江戸城に居座る謎の武士の正体と目的を探りだす男たちの物語。さながら、立ち退きを求められた古アパートの住人とでもいうべきか、それとも競売にかけられたマンションに居座るヤクザなのだろうか。すでに江戸から明治への移り変わりは既定路線で、どう頑張っても逆転は無理。

そんな状況でありあがら、謎の武士が江戸城に居座り一歩も動かない。あからさまに金や何かしらの要求があれば対応のしようもあるが、一切話をしないことが物語を複雑にしている。時代的には血なまぐさい時期でありながら、本作の物語のトーンはどこかやわらかで、ユーモアすら感じてしまう。右往左往する武士たちの様がそう思わせるのだろう。

■ストーリー

二百六十年の政にまもられてきた世がなしくずしに変わる時。開城前夜の江戸城に官軍の先遣隊長として送り込まれた尾張徳川家の徒組頭が見たのは、宿直部屋に居座る御書院番士だった。司令塔の西郷隆盛は、腕ずく力ずくで引きずり出してはならぬという。外は上野の彰義隊と官軍、欧米列強の軍勢が睨み合い、一触即発の危機。悶着など起こそうものなら、江戸は戦になる。この謎の旗本、いったい何者なのか―。

■感想
官軍に城を明け渡すはずが、江戸城に居座る謎の武士の存在により、ひと悶着起きる。物語の前提に力づくで追い出すことができないというのがある。そのため、あらゆる説得により自発的な退場を促すのだが…。

その気になれば、力づくで追い出すことは簡単だ。ただ、そのことにより、行為がエスカレートし、血なまぐさい争いになることを避けたい。明治維新のさなか、元は同じ武士でありながら、官軍と徳川軍に別れた武士たちの微妙な心理が物語を面白くしている。

六兵衛とは何者なのか。御書院番というのはわかるが、その正体がわからず調べた結果…。より物語は複雑になる。六兵衛がそもそも忠義にあつい男ならば、その行動に納得できる。それが、実は六兵衛の正体は…。かなり意外な展開だ。

上巻では、六兵衛が移動しながらも城からでていかない状況が描かれ、それを即席官軍となった武士や、勝海舟がどうにか穏便に追い出そうとする。正体が判明するとなおさら目的がわからず、どうにも追い出す手段がない。ドタバタする武士たちのあわてぶりを楽しむ作品だ。

六兵衛がとんでもない不良武士なら話は早いが、誰もが認める礼儀正しい武士なだけに、周りは手が出しづらい。御一新での複雑な状況と、それぞれの立場での発言がなんとも複雑な面白さを生んでいる。一歩間違えれば、切腹や打ち首があり得る世界。

血なまぐさい戦いが上野で繰り広げられている最中、実は江戸城では別の大きな問題が起こっていたというのは面白い。血なまぐさい状況はないのだろうが、六兵衛の態度から感じられるのは、決して折れることのない強い信念を感じずにはいられない。

下巻では六兵衛の真意が明らかになるのだろう。



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