黒書院の六兵衛 下 


 2014.7.27     オチをごまかされた? 【黒書院の六兵衛 下】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
上巻では、六兵衛の目的のわからない座り込みに混乱する武士たちが描かれていた。本作では、とうとう六兵衛の目的と正体が明らかとなるかに思われたが…。オチはかなり物議をかもしそうだ。六兵衛は実は上様が身を隠すために利用した仮の姿なのか。それとも、イギリスのスパイなのか、それとも…。様々な憶測が語られるが、六兵衛の武士としてのすばらしさが、憶測のたびに協調される。

ついには鰻を目の前で焼き、食べ物でつろうとする。六兵衛の正体が何かは本作では明らかにされない。時代に取り残された武士の心意気が最後に説明されており、それらが城に居座った理由とされている。様々な仮説すべてを否定したオチとしては納得できないが、武士の心情を表現することに重点を置きたかったのだろう。

■ストーリー

まもなく天朝様が江戸城に玉体を運ばれる。御書院番士はそれでも無言で居座り続けた。常の勤番所から、松の御廊下の奥へ詰席を格上げしながら。品格ある挙措と堂々たる威風は、幕末という時代が多くの侍に忘れさせた武士道の権化に映る。名も勲も金もいらぬ。すべてをなげうって武士の良心を体現した成り上がり者の希みとは、いったい何なのか―。

■感想
六兵衛の居座る場所が、次々と出世していくのがポイントだろう。最後は黒書院となり、明治天皇と面会という、行きつくところまでたどり着く。大政奉還のおり、どれだけ大人物に話しかけられたとしても、ひとことも口をきかず、その場所から動こうとしない。

鰻を目の前で焼き、それを口にし体に不調をきたしたとしても、横になることなく、ただひたすら座り続ける。後半では、保身により六兵衛を追い出そうとした者たちは、すべて諦め、六兵衛を放置する。ここまで引っ張り続けた理由は、否が応でも興味を持ってしまう。

オチの前に、六兵衛の正体について様々な憶測がなされる。実はイギリスのスパイであり、城内の情報を得るために居座っているというのや、実は徳川慶喜が身を隠すために六兵衛になりきっているだとか、どれも突飛なオチとしては素晴らしい。

かなり強烈な流れなのだが、すべてが否定されてしまう。最後の最後には、明治天皇との面会が待っている。六兵衛の目的はいったい何なのか。ここですべてが明らかとなるのかと思いきや…。武士道とは何かを語り、それによりオチをごまかしているように思えてしまう。

ここまで、様々な大人物を右往左往させたあげくの答えとしては、かなり肩透かしだ。広げた大風呂敷をたたむことができなかったのか、もしくは今までの前座のアイデアを超える衝撃的な理由が思いつかなかったのか。

作者のことだから、あえて理由を表明しないことで、武士の心意気を表現したかったのだろう。読者は、特別な理由がなくこんなことをする六兵衛に、「やはり武士の心はすさまじい」と思うだろうか。単純に、ごまかされたと感じてしまうのは、まだまだ読み込が足りないからだろうか。

助走が長ければ長いほど、どうしても強烈なオチを期待してしまう。



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