数えずの井戸 


 2014.11.1      番町皿屋敷の新説 【数えずの井戸】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

番町皿屋敷を新解釈で描いた本作。井戸から皿を数え、一枚足りないというイメージがあるのだが、本作ではそうなった理由を新解釈で描いている。元の話をあまり詳しく知らないため、新鮮な気分で読むことができた。菊が殺された原因は、青山家の家宝の皿が一枚足りないことで打ち首となったとされている。

本作では、当主である青山播磨や、縁談先である大久保家の娘や、青山家の使用人など様々な人物がかかわり、最終的に青山家が皆殺しとなる。それらが菊が皿にこだわる理由として語られている。不幸な出来事には複雑な要因がある。誰が悪いという単純な話ではない。そして、菊の生い立ちが菊の心の負い目となっていたことが強く描かれている。新しい解釈はやはり非常に興味深い。

■ストーリー

不器用さゆえか奉公先を幾度も追われた末、旗本青山家に雇われた美しい娘、菊。何かが欠けているような焦燥感に追われ続ける青山家当主、播磨。冷たく暗い井戸の縁で、彼らは凄惨な事件に巻き込まれる。以来、菊の亡霊は夜な夜な井戸より涌き出でて、一枚二枚と皿を数える。皿は必ず―欠けている。足りぬから。欠けているから。永遠に満たされぬから。無間地獄にとらわれた菊の哀しき真実を静謐な筆致で語り直す、傑作怪談!

■感想
皿が一枚欠けたことから不幸な出来事が起こる。なんていう単純な物語をイメージしていたが、作者が描いた作品はまったく別物だ。青山家の当主である播磨と、それに関わる人物たちの不幸な行き違いの物語だ。持ち込まれた縁談の話に乗り気ではない播磨。青山家の家宝である皿を手に入れるために、縁談の話にのる大久保家の娘。

すべての人物に何かが欠けている。青山家の使用人にしても、家宝の皿をひたすら探し続ける。欠落を抱えたまま、縁談が進みいびつな生活となる。それぞれのキャラが抱える欠落というのがはっきり明示されないだけに、妙な恐怖感がある。

本作では作者の作品ではおなじみの又市が登場する。菊の奉公先を世話するというちょい役なのだが、又市がかかわることで京極色が強くなったような気がした。新たな奉公先としての青山家では、菊の自己批判的な心情が、菊の状況を深刻にしている。

播磨や大久保家の娘にどんなことを言われようとも、自分の出自を負い目として、すべて自分が悪いと受け入れる。菊の奥ゆかしさは表現されているのだが、卑屈な思いが、様々なひずみを生んでいる。

ラストは怒涛の展開だ。誰により青山家が皆殺しにされたのか。そして、その理由は…。最初は大久保家の娘に対するちょっとした嫌疑から始まった。そこから雪崩のように次々と新たな問題が浮かび上がり、誰もその流れを止めることができない。

破滅への流れに拍車をかけたのは、間違いなく播磨の知り合いである侍、遠山主膳だ。剣の腕がたち、ひとつでも欠けているのなら、すべてを捨ててしまえば、欠けたことが気にならない、という考え方の持ち主が、すべてをリセットしたという感じだ。

新説は非常に新鮮に感じられた。



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