2014.11.25 危機的状況を分析 【人類資金5】 HOME
評価:3
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■ヒトコト感想
Mの正体と十兆円もの大金の使い道が明らかとなった前巻。まだはっきりとMがやろうとしていることの影響度は伝わってこない。本作は、Mがやろうとすることの壮大さを本庄やハロルドなどの言葉で、より強烈なものだと印象づけるために、かなりの文章量が割かれている。
さらには、M資金が日本の戦後復興にどのように役立ったのか。そして、感情のない殺し屋遠藤が、どのようにして生まれ育ち、財団と関わってきたのかが描かれている。どちらかというと、物語の壮大さとM資金の正体を明らかとさせるための巻といった感じだろうか。真舟や石はあまり活躍しない。財団の関係者たちが過去を回想しながら、現在の危機的状況を分析するという流れだ。
■ストーリー
資本という魔物に食い尽くされつつある世界を救うには。呪われた遺産『M資金』の継承者たる自分がなすべきことは。求道者のごとく問い続けながら世界を彷徨していた笹倉暢人は、流れ着いたアジア辺境の小国でついにその答えと出会った。自分がしたことの真の意味を知った真舟の前に立ちはだかるものは?
■感想
Mの正体が明らかとなり、その余波が財団を包み込む。笹倉家の因縁とハロルドの考え方が明らかとなる。前巻だけではMのやろうとすることが、そこまで全世界に影響を与えるとは思えない。そのため、財団の幹部、特にハロルドの言葉を借りることで、事態の深刻さをアピールしている。
本庄がひとり財団に立ち向かい、ひたすら抗弁するシーンというのは気概を感じる。が、財団の余裕を感じずにはいられない場面でもある。超巨大組織である財団が、なぜMの計画にそこまで神経質になるのか。ハロルドの説明でも、まだ実感はできない。
人の死に関する感情がない殺し屋、遠藤。謎の人物ではあったが、本作でその出自と正体が明らかとなる。どのようにして財団と関わることになったのか。過去のM資金から繋がる因縁と、血の繋がりから逃げることができない遠藤。感情がないだけに、人を殺すことにも躊躇しない。
精算人としての高い能力がどのようにして作り上げられたのか。才能と環境により完成された男が見てきた世界は、そのまま財団の正体へと繋がっていく。財団の歩んできた道が、事細かに説明されている。
囚われの身となった笹倉暢人。真舟や石はもはや権力のなくなった暢人とは関係のない動きが可能となる。物語の流れとしては、財団が暢人の計画をつぶそうとするが、暢人の手を離れた計画はもはや止めようがない。となると、暢人の計画に相乗りするのか、それとも徹底抗戦の姿勢を貫くのか。
財団の長たるハロルドが、本作のラストで少しだけ暢人に歩み寄るような思考を見せる。ただ、そこで真から財団に尽くしてきた遠藤が動き出すような気がした。財団の力がどこまで大きく、ひとりの人間でどこまで制御できるのかは謎だ。
ラストに向けた最後の説明の巻といった感じだろうか。
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