厭な小説 


 2014.2.3   厭と恐怖は紙一重 【厭な小説】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

厭な小説というタイトルどおり、厭な状況ばかりが目白押しだ。厭という中には恐怖がある。恐怖がエスカレートし、厭な状況へと変化していくものもある。深谷の同僚が経験する厭な出来事。最終的には深谷自身にも厭な状況が襲いかかる。厭な状況へおちいる必然性は語られていない。そのため当事者の精神の異常により厭な状況だと錯覚している可能性もある。

冷静に考えると、本作のような厭な状況が当人の錯覚によるものだとしたら、精神に異常をきたすのも納得してしまう。恐怖よりも、自分がその状況に直面したら…。とてつもない厭な状況に気が狂ってしまうかもしれない。実は単純な恐怖よりも恐ろしい

■ストーリー

「厭だ。厭だ。厭だ――」同期深谷の呪詛のような繰り言。パワハラ部長亀井に対する愚痴を聞かされ、うんざりして帰宅した“私"を出迎えたのは、見知らぬ子供だった。巨大な顔。山羊のような瞳。左右に離れた眼。見るからに不気味な子供がなぜ? しかし、妻は自分たち以外に家には誰もいないと言う。幻覚か? だが、それが悪夢の日々の始まりだった。一読、後悔必至の怪作!

■感想
「厭な子供」は、夫婦仲がうまくいかない家庭に突然現れた変な子供の話だ。神出鬼没。幽霊ではないが、突然消えてしまう。脱衣所から風呂場をのぞくため扉に顔をつけて中を覗き込むシーンは、想像しただけで鳥肌がたつ。幻覚なのか、それとも現実なのか。

現実であれば、見知らぬ子供が勝手に家に出入りしている恐怖がある。目的がわからず翻弄される夫婦。厭な子供であることは間違いない。悪夢の日々から抜け出すには、厭な子供に対してもっともらしい理由づけをするしかない。

「厭な先祖」は強烈に気持ち悪い。後輩から預かった仏壇から、蟹が腐ったような匂いが漂ってくる。”私”は、仏壇の中を見るのだが…。人の家の仏壇を預かるというのが、そもそも気持ち悪い。仏壇から変な匂いが漂ってくるとなると、死体があるのか?なんて想像をしてしまう。

興味を抑えることができず、仏壇を開けて見ると…。なんとも恐ろしい。これは厭というのではなく、理由のない恐怖だ。死体ではないが、先祖が仏壇の中にいる。それも、代々の先祖が…。

「厭な彼女」は、ありそうなシチュエーションなだけに厭だ。”私”の彼女が私の嫌がることばかりする。怒れば素直に謝るのだが、また同じことをする。読んだ瞬間に、ここまで極端ではないが、同じことを繰り返し、話が通じない相手というのはいると思ってしまった。

究極の形かもしれないが、こちらが厭だと言った瞬間、それをひたすら繰り返す彼女。同僚の言葉で、自分の精神異常を疑うのだが…。別れることもできない厭な彼女につかまったら、諦めて厭な状態で暮らすしかない。

厭な状況と恐怖は紙一重だとわかった。



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