放浪探偵と七つの殺人 増補版 


 2014.12.5      黄色いタンクトップの男 【放浪探偵と七つの殺人 増補版】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

動く家の殺人」の信濃譲二が探偵役となる短編集。一年中、黄色いタンクトップにジーンズ姿という譲二の個性が際立つ短編ばかりだ。ある事件が起こると、なぜかその近くにいたり、同じアパートに住んでいたりと、譲二が関わる理由は成立している。そこから、警察や関係者から何かを聞かれたとしても、すべてをわかったような口ぶりで相手を怒らせる。

全てを知り尽くした上で、勿体つけるように真実を明かさない。相手の怒りを増幅させるような行為が譲二の特徴なのだろう。ミステリー的な面白さで言うと、「マルムシ」はあとがきを読むことで、その苦労と葛藤がよくわかり、実際に試したくなる良作かもしれない。

■ストーリー

なぜ死体は動いたのか?殺人者が犯した、たった一つの過ちとは?「家シリーズ」の名探偵・信濃譲二が奇想天外な難事件の謎を見事な推理で解決する七つの短編に、幻の未収録作品「マルムシ」を加えた試みと驚きに満ちた傑作ミステリー八編。

■感想
「ドア→←ドア」は、事件を起した者が、自分に疑いがかからないよう仕組んだトリックを、譲二があっさりと見破る物語だ。衝動的な殺人から、冷静になり身を守るため、大掛かりな仕掛けを作る。モメた際にドアの窓にひびが入り、それを隠すためにとった行動はかなり強引だ。

隣の部屋とドアを取り換えるなんてことを考えるだろうか?と違和感を持つが、最後にはそんなことどうでもよくなってしまう。結局は、譲二がどうやって謎を解き明かすのか、その思考プロセスを楽しむ短編だ。

「有罪としての不在」は、譲二も住む寮で殺人事件が発生した。限られた容疑者の中で、犯人を突き止められるのか。本短編は作者から読者に対する挑戦形式となっている。ただ、自分としては文章を細かく読み進め、犯人を探り当てるつもりなく読みすすめた。

最後に解答編が語られるのだが、細かい条件設定はかなり強烈だが、普通の人がこの思考にたどりつけるだろうか。どうにも、あげ足取りに感じてしまう。真のミステリーファンならば、そのあたりを楽しみながら推理し読みすすめるのだろう。

「マルムシ」はあとがきまで読むと、その衝撃は大きくなる。お蔵入りになるはずの作品だったが、その理由も明かされている。大学の研究室で研究生が殺されていた。カードがちらばり、カードをまとめた側面にはなにやら文字が書かれていた…。

カードを重ね、そこに文字を書く。カードの並び順を変えると別の文字になる。なんとなくイメージできるが、実は作者がすべてを実演した上でのトリックということに驚いた。あらゆる文字を検証した結果が本作であり、当然ながら、同じことを考えた人もいたということだ。

信濃譲二のキャラが好きな人にはたまらないだろう。



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