動く家の殺人 


 2014.3.5    名探偵役が死ぬ物語 【動く家の殺人】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
信濃譲二が探偵として活躍する本シリーズ。冒頭から譲二は死んだという記述があり、それを裏付けるような物語が始まる。今までのシリーズでは、狂言回し役として徹がその役割をはたしていた。が、今回は譲二目線で物語はすすんでいく。探偵目線では、物語の核心をボカシながら読者の興味を引くことができない。案の定、譲二の思考はそのまま物語に反映され、物語はすすんでいく。

事件のトリックや犯人が誰なのか。もったいぶる記述がないだけに、サラリとすすんでいく。そして、最後には冒頭にあったように譲二が殺されるのだが…。このシリーズは主人公が殺されて終わるという変な作品だなぁと思っていたら、最後に大きな仕掛けがまっていた。

■ストーリー

名探偵・信濃譲二は、とある小劇団にマネージャーとして参加し、万能ぶりを発揮し始める。だが、特別公演「神様はアーティストがお好き」の初日、惨劇の幕が切って落とされた。次第に疑心暗鬼になっていく団員達。六年前の稽古中の死亡事故と関係が?信濃が命をかけて謎解きに挑む、傑作本格推理第三弾。

■感想
徹の存在なくして、譲二は活きない。徹が疑問を提示し、譲二がすべてを理解していながらもったいぶって真実を明かさない。このモヤモヤ感と、真実を知った時の驚きが本シリーズのポイントなのだが、今回は譲二が事件を最初から最後まで見届けている。

譲二ひとりの思考と推理なので、外野の的外れな推理にしてもすぐに間違いとわかる。譲二がどのようにして解決にいたるのか、そのあたりは微妙にごまかされているが、それでも今までのシリーズと比べ、異質なのは間違いない。

譲二が小劇団のマネージャーになるのも違和感がある。自分の欲望に忠実な譲二なので、趣味が高じてやる気になったのか。まだキャラ設定が確立されていないので、読者はあっさりと受け入れてしまう。そして、譲二の女関係の話や、恋愛にいたるまで、すばらしい能力を秘めたミステリアスな男というイメージがだんだんと崩れていく。

事件は譲二の推理により解決し、めでたしめでたしとなるはずが、最後に譲二は殺されてしまう。まさかの展開だ。冒頭の徹のつぶやきに間違いはない。こんなシリーズの終わらせ方もあるのだと驚いた。

ラスト間際には、すべてをひっくり返す答えが用意されている。なぜ譲二目線で物語をすすめてきたのか。なぜ今までは御手洗潔風の性格だったのが、突如としてどこにでもいる、ありきたりな存在となったのか。徹が目にした新聞記事に間違いはなく、信濃譲二は間違いなく殺された。

それだけに、作者が仕掛けた罠にまんまとはまってしまった。本編の事件のトリックは正直どうでもよいのかもしれない。ミステリー的な面白さよりも、信濃譲二の真実の方が何倍も興味深い。

この手の仕掛けは良くあるパターンだが、やられたとしか言いようがない。



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