人の砂漠 


 2014.6.14     あなたの知らない世界 【人の砂漠】  HOME

                     

評価:3

沢木耕太郎おすすめランキング

■ヒトコト感想

別世界の住人の物語。本作に登場する人々を、別世界と感じることができるのは、ある意味幸せなことなのかもしれない。今まで自分の周辺や身内には存在しない世界。こんな世界があるのか?という衝撃がある。ニュースでたまに目にする独居老人の孤独死。作者が調査しようとする真相は、かなり強烈だ。過去を捨てた女たちが集まるユートピアなんてのは、そんな場所が存在していたことに衝撃を受けてしまう。

屑の世界にしても、日常で目にはしているはずの、空き缶やごみを自転車で集めている人々の行き先ということになる。無意識に見ないようにしているのか、それとも自分の人生にイチミリも関係ないことには意識を遮断しているのか。新たな世界がここにはある。

■ストーリー

一体のミイラと英語まじりの奇妙なノートを残して、ひとりの老女が餓死した―老女の隠された過去を追って、人の生き方を見つめた「おばあさんが死んだ」、元売春婦たちの養護施設に取材した「棄てられた女たちのユートピア」をはじめ、ルポルタージュ全8編。陽の当たらない場所で人知れず生きる人々や人生の敗残者たちを、ニュージャーナリズムの若き担い手が暖かく描き出す。

■感想
「おばあさんが死んだ」は強烈すぎる。老人の餓死。そこにはミイラ状の兄の死体もあった。歯科医師の資格を持つ老女に何が起こったのか。作者が取材し、老女の周辺を調査すればするほど辛くなる。なぜ、誰にも助けを求めず餓死したのか。

実の兄が死んだことを誰にも言わず、同じ部屋で暮らし続けたのか。避けられない事態ではない。今の日本、助けを求めれば、どうにかなったはずなのだが、それを拒否した老女の心持というのは、作者の取材から伝わってきた。

「棄てられた女たちのユートピア」は、体を売って生活してきた女たちが逃げ込むユートピアの話だ。が、本人たちにはユートピアとはならない。衣食住には困らなくとも、女として求めるものがある。知能が低い女たちばかりが集まるというのが衝撃だが、そこで生活し管理する側の男にも衝撃を受けた。

恐らく、普通に生活している人であればまったく気づくことのない異世界だ。そんな世界に入り込み、取材し、女たちの生い立ちやそこで生活する男たちの話を聞く。下手すると自分が取り込まれてしまうような気分になる。

「屑の世界」は、空き缶や鉄くずを集める仕切り場で作者が働くことで、そこに屑を売りにくる人々を取材している。ホームレスが空き缶を集めてどこかへ持っていく姿はたまに目にする。が、どこにもっていくのか意識しなかった。

当然存在すべき仕切り場だが、そこに来る人たちは、ひと癖もふた癖もある。日の当たらない場所で生きる人々。自分とはまるっきり別世界だが、ドキュメンタリーのはずがいつのまにか上質な映画を見ているような気分にさせられる。

別世界すぎて、架空の物語に思えてしまう。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp