はじめての夜 二度目の夜 最後の夜 


 2014.4.26    欲望に忠実な男 【はじめての夜 二度目の夜 最後の夜】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

69」のヤザキが40歳となり、初恋のアオキミチコと再会する。大人のドロドロとした不倫を描いているかと思いきやそうではない。中学時代の思い出を語りつつ、大人になったお互いを確かめ合うという物語なのだが。良い。とても良い。「69」の流れを引き継ぎながら、自由奔放な中学時代の回想が良い。大人となり、中学時代のヤザキを分析するミチコの的確な言葉。

大人になり失った自由がそこにはあるが、代わりに大人となり得た自由がある。物語としては、初恋の人とレストランで食事をし、中学時代を思い出す、というただそれだけなのだが、逆にそのシンプルさが良いのだろう。初恋の人と初めての夜を迎え、最後の夜を過ごす。肉体的な変化よりも、精神的な変化の方が影響が大きいと気づかせられる作品だ。

■ストーリー

東京で活躍する作家・ヤザキはある夜、中学時代の同級生・アオキミチコから電話を受ける。初恋の女性だった。懐かしく切ない声に、ヤザキは、失われた「黄金時代」を思い、ハウステンボス内にある唯一無比のフレンチレストラン「エリタージュ」での再会を約束する。そして、二十年という時間を経て、「はじめての夜」がやってきた。年月と共に初恋は消滅したのか、それとも…。中学時代の初恋が、溜息の出るような最高の料理とともに今、切なく甦る。

■感想
中学時代を共に過ごした初恋の人と40歳にして再会する。となると、想像するのはドロドロとした恋愛だが、そうはならない。お互い中学時代の思い出を語り、レストランで食事をし、夜を過ごす。そこにいやらしさはなく、大人の健全さのようなものにあふれている。

大人の恋愛とでも言うのだろうか。過ぎ去った年月を悲しむのではなく、ポジティブにとらえつつも、お互いの変化を認めずにはいられない。肉体的な変化よりも、過ごした年月による精神的な変化の方が影響が大きい。初恋の人と再会したとしても、うまくいかないのは普通のことだろう。

ヤザキとミチコが盛んに語る中学時代の回想が良い。ヤザキの破天荒な行動もそうだが、それに対するミチコの反応がすばらしい。中学生らしいやんちゃをしても、そこには今を楽しむという立派なポリシーがある。そして、そのポリシーを持ち続けるヤザキと、現実的な生き方を選択するミチコ。

中学時代は決められた枠内でしか生活できない。それが、年齢を重ねるごとに枠から大きくはみ出ることも可能となる。昔ながらの枠にはまったままのミチコと、枠から大きく外れたヤザキ。どちらが幸せというのはないが、初恋の人と恋愛することのむずかしさを感じさせる物語だ。

レストランで食事をしながら初恋の人と語り合う。相手が息子の話や、友達の不倫の相談をしてきたとき、男はどんな反応をすべきか。つい深読みしてしまうのか、それとも本当にただ相談したいだけだったのか。大人の恋愛としての作法は守られてはいる。ただ、ヤザキの欲望に忠実な部分はすばらしく思えてくる。

中学時代と変わらず、楽しいことをする。最後の夜では、ミチコからもう会わないと告げられるのだが…。ヤザキから断ることはイメージしやすい。そこをあえてミチオからの断りとするのが、作者のすばらしいところなのだろう。

欲望に忠実なヤザキが、ミチコに断られ茫然とする姿もまたすばらしい。



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