ゴーグル男の怪 


 2014.7.12     衝撃的な臨界事故描写 【ゴーグル男の怪】  HOME

                     

評価:3

島田荘司おすすめランキング

■ヒトコト感想

ゴーグル男の風貌の奇妙さもさることながら、東海村臨界事故をモデルとした核燃料製造会社の事故描写には衝撃を受けた。恐らく、実在の事故をベースとしているのだろう。被害者の治療描写や症状などは、強烈すぎる。情報として事故のことは知っていたが、すべてが事実ではないにせよ、被ばくした人物がどのような症状に悩まされ、どうなっていったかは、すさまじく印象に残っている。

ゴーグル男が、被ばくをすんでのところで逃れた一人の男のことである、という流れで物語が進み、非常に暗く陰鬱な描写が続く。ゴーグル男の奇抜さでごまかされているのだが、事件の本質は実はたいしたことはない。臨界事故の衝撃で、他のすべてがかすんでしまっている。

■ストーリー

「そいつ、両目の皮膚が溶けたように真っ赤なんですよ…」煙草屋の老婆が殺された濃霧の夜、ゴーグルで顔を隠した男が、闇に消えた…。死体の下から見つかった黄色く塗られたピン札、現場に散乱する真新しい五十本の煙草。曖昧な目撃情報、続出する怪しい容疑者、奇怪な噂が絶えない核燃料製造会社…。そしてついに白昼堂々、“ゴーグル男”が出現した。

■感想
両目の皮膚が溶けたように真っ赤で、それをゴーグルで隠す男。核燃料製造会社で発生した臨界事故により、作業員二人が死亡し、残った一人は鉄の防護服を着て目だけを露出させていたために、そこだけ被ばくし、皮膚が溶けてしまったのか。

物語はこの流れになるように描かれている。衝撃的な臨界事故の描写。被ばくした作業員二人の治療風景は、トラウマになりそうなほど強烈だ。中性子線に貫かれ、DNAが破損し、新たな細胞を作ることができない。結果、古い皮膚は剥がれ落ち、血と筋肉が露出する。強烈な場面だ。

ゴーグル男がたばこ屋のお婆さんを襲撃し、金を盗み取った。物語はこのゴーグル男の正体を探ることからスタートする。それと並行し、事故を経験した作業員目線での物語がある。作業員の人生はとてつもなく暗い。幼いころに性的虐待を受け、それがトラウマとなり、人生を踏み外す。

読者は、この作業員がゴーグル男だろう、という確信を強くする。そんな読者の想像を補完するような流れが続いていく。ゴーグル男のゴーグルの中は真っ赤だった。ある程度ミステリーを読み慣れた人であれば、ここに何か仕掛けがあると気づくだろう。

ゴーグル男が起こした事件はあまり大したことはない。ミステリー的に不可能殺人であるわけではない。ただ、奇抜な恰好をしたゴーグル男の正体が不明なだけに、物語が奇妙な怖さがある。臨界事故に関係しているのでは?という流れは終盤になり、刑事が気づくことになる。

そこから、物語は一気に解決へと向かっていく。ストーカーや詐欺事件など、複雑にからみあう展開なのだが、オチは極めてシンプルだ。詐欺事件の手法についても、「進々堂世界一周」で登場したので、すんなりと理解できた。

臨界事故の衝撃は、強烈なインパクトがある。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp