不思議の果実-象は空を2 


 2014.3.2    伝説的大物にインタビュー 【不思議の果実-象が空を2】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

80年代における作者の雑文集。インタビューあり、講演あり映画批評あり。ノンフィクションライターが本業だが、その活動は多岐にわたる。中でも大物芸能人に対するインタビューは、伝説的な大物にインタビューしていることに驚かされる。いちノンフィクションライターが美空ひばりや吉永小百合に親しげにインタビューできるのだろうか。

当時であれば今以上に大物感が漂っていたはずだ。となると、作者はそんな大物たちに引けを取らないほどの何かがあったのだろう。その他には、映画批評は残念ながら、あまりに古い作品ばかりなので、楽しめなかった。80年代というと…。と、つい自分が何歳だったかを考え、映画を知らなくても当然だと納得してしまう。

■ストーリー

インタヴュアーの役割のひとつは、相手の内部の溢れ出ようとしている言葉の湖に、ひとつの水路をつなげることなのかもしれない…。彼ないし彼女を理解しつくしたいと願いつつ、人と会う。胸揺さぶられる一瞬を期待し、ボクシングを、映画を、オリンピックを見る。デビュー以来、飽くことなく続く「スタイルの冒険」。

■感想
作者のインタビューは、どんな大物だろうと物おじせずに聞きたいことを聞いている。普通の感覚ならば、少しは恐れというものがあるだろう。伝説的な大物に相対したときの作者の心境はどのようなものなのだろうか。作中ではそれなりに緊張している描写があるが、それでもつっこんだ質問をしている。

吉永小百合に気を使わせ、美空ひばりが喜んでインタビューに答える。世代的に自分の父親世代なのだが、作者の魅力というのがインタビューされる側には十分伝わっていたのだろう。

もうひとつ印象的なのは、ロサンゼルスオリンピックでマラソンの瀬古が負けた際にコーチに行ったインタビューだ。瀬古が負けたのは自分が直前に病気になったせいだと言うコーチ。それに対して作者は、瀬古ならば乗り切れる精神の強さを持っているはず。コーチがそんなコメントをするのは瀬古をおとしめている、と言う。

なかなか言える言葉ではない。それを聞いた瀬古のコーチはその通りだと答える。普通の感覚では、有名人に対してどこか下手にでるはずが、作者はそんなことは絶対にしない。何か強い信念を感じてしまう。

本作では、作者が競輪の若手選手たちに対して行った講演について文章化されている。カシアス内藤というボクサーについて語るのだが、かなり印象深い。実力はありながら一度負けるとそこから転げ落ち、怠惰な生活を続けボクサーとして終了する。が、復帰しやる気を見せるが…。

世界一になるようなプロスポーツ選手は、普通の人では持ちえない渇望があるらしい。それが何なのかは語っていないが、わかるような気がした。締めとしてカシアス内藤が今は幸せな家庭を築いており、復帰戦で勝っていたらこの幸せはなかったかもしれないという言葉が印象的だ。

80年代は、はるか昔だが今読んでも十分楽しめる。



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