2014.7.5     耐え忍ぶ作家の妻 【檀】  HOME

                     

評価:3

沢木耕太郎おすすめランキング

■ヒトコト感想

檀一雄の妻に作者がインタビューして描いた作品。小説なのかノンフィクションなのか…。基本的に自分は檀一雄についてまったく知識がない。名前はなんとなく聞いたことがある程度で、代表作である「火宅の人」も聞いたことがある程度だ。たとえ檀一雄のことを知らなくても、本作を読むことで、その人となりがなんとなくだがわかってきた。

妻から見た檀一雄の姿が描かれている本作。ステレオタイプの作家像だけではない。檀が健康に気を遣い、なおかつ妻や愛人に対しても気を使うなど、繊細な部分も持ち合わせているとわかる。本作に登場する出来事がすべて事実であり、間違いなくノンフィクションなのだが、上質な架空の物語を読んでいるような気分になる。

■ストーリー

愛人との暮しを綴って逝った檀一雄。その17回忌も過ぎた頃、妻である私のもとを訪ねる人があった。その方に私は、私の見てきた檀のことをぽつぽつと語り始めた。けれど、それを切掛けに初めて遺作『火宅の人』を通読した私は、作中で描かれた自分の姿に、思わず胸の中で声を上げた。「それは違います、そんなことを思っていたのですか」と――。「作家の妻」30年の愛の痛みと真実。

■感想
檀一雄とはどんな人物だったのか。一雄の妻がその思いを語る。檀一雄について何一つ事前知識がない状態で本作を読んだのだが、作家の妻の強さに驚かされた。時代的なものから、たとえ男が外に女を作っても、妻は家で大人しくしているしかない風潮だったはずだ。まして、夫が有名作家ともなれば、世間の見る目は違う。

そんな状態であっても、自分の意見を主張し、子供のことを忘れ、ひとりの女として出て行ってしまう。作家の家庭というと、好き放題暴れまわる作家と、陰で献身的に支える妻というイメージがあったが、少し崩れたかもしれない。

檀一雄がかなりわがままで、妻がひたすら尽くしてきた描写もある。今の時代では考えられないような暴挙の数々であっても、昔だから、作家だからと考えてしまう自分がいる。時代が変わったとしても、夫が愛人の元に通えば、妻は辛く苦しいのは当たり前。

それを表現するかしないかの違いでしかない。愛人との関係を赤裸々につづった「火宅の人」が大ヒットした時、やりきれない思いだったのだろう。作家の妻として、客観的に考えると不幸にも思えるが、ラストで本人が幸せだったというニュアンスの言葉を語ったのが救いかもしれない。

檀一雄という存在はまったく知らなかった。本作を読んだからといって「火宅の人」が読みたくなるわけでもない。ただ、作家の自由奔放のように見える暮らしと、その妻の苦悩はまるで架空の物語を読んでいるような気分にさせられる。

平凡な人でも、その一生を読まさせると何かしら感じるものがある。まして、有名作家となれば、様々な出来事があったのだろう。外に愛人を作りながらも、妻を大切に思い、穏やかなようでいて激しさもある。やはり作家というのは特殊な職業だと思わずにはいられない。

完全なノンフィクションとして読んではいない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp