だから荒野 


 2013.12.25    猛々しい主婦の家出 【だから荒野】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

主婦がある日突然家出をする。家出した主婦目線と家出された夫目線の物語が続く。どちらに感情移入するかで、ずいぶん印象は変わるだろう。すでに崩壊した家庭でありながら、なんとか元に戻そうと奮闘する夫。車で家出した主婦であっても、すんなりと目的地に到達できるわけではない。このあたり、次々と起こるハプニングからどのような結末となるか先は見えない。

理不尽な状況に怒り、怠慢な息子たちにイラ立ち、思い通りにならない状況に怒る。かと思えば、ラストは意外に未来へと繋がるハッピーエンドとなっている。夫婦の非日常感を安全な位置で楽しむというスタンスが良いのだろう。次々襲いかかるトラブルに、どのように対処していくのか、たくましく生きる人々の物語だ。

■ストーリー

傲慢な夫や息子たちに軽んじられながら、家庭をささえてきた主婦・朋美は46歳の誕生日、ついに反旗をひるがえす。衝動にかられ夫自慢の愛車で家出、「初恋の男が長崎にいるらしい」という理由で、長崎に向かって高速道を走り始めるのだった。奪われた愛車と女の連絡先の入ったゴルフバックばかり心配する夫を尻目に、朋美は自由を謳歌するが―― 冒険の果てに、主婦・朋美が下した「決断」とは?

■感想
身勝手な夫や文句ばかり言う息子たちに嫌気がさし家出する主婦。同じような状況にいる主婦が読めば、その思い切った行動に心がすっきりするだろう。対して家出された夫からすると、辛い。自分の身勝手な行動は棚に上げて、妻に対して怒りの気持ちは強くなるのだろう。自分もどちらかと言えば、夫目線で読んでしまった。

専業主婦としてのうのうと暮らしておきながら…。という、上目線でのイラ立ちがつのるだろう。作中では、家出を発端として様々な問題が浮かび上がってくる。怒涛のトラブルをすべてすんでのところで回避している二人の生命力の強さを感じずにはいられない。

家出の道中、主婦は様々な困難にぶち当たる。世間とはこれほど悪意に満ちているのかと思わされる部分だ。世間知らずという言葉でかたずけられる部分ではない。車を盗まれ、老人の家では年金が騙し取られる。世間の厳しさと、安易に騙される主婦に怒りと同情を感じてしまう。それと共に、二人の息子たちにも怒りをおぼえてしまう。

ネットゲーム三昧の次男。母親の家出にショックを受け、ついていくのだが、そこでも自堕落な生活を続ける。このあたり、ムカムカが最高潮に達してしまった。いつの間にか自分が作中の主役になったような気分で読んでしまうほど、臨場感あふれる作品だ。

中年夫婦というのは難しい。専業主婦がひとり荒野に飛び出すのも難しい。ただ、後先考えない思い切った行動というのは好感がもてる。ラストは、崩壊しかけた家族がいつの間にか、またひとつになろうとする。都合が良すぎるようだが、強引なハッピーエンドでも良いように思えた。

とにかく、読んでいる間中、ふたりの幸せを願う気持ちは特にないが、ふたりがどうなるのかだけが気になり、ページをめくる手を止めることができない。そして、主婦が旅先で世話になった山岡老人の最後の言葉がやけに印象に残っている。雑多な感想だが、物語として人を引き付ける力があることは間違いない。

平凡な家庭の物語よりも、トラブル満載の物語の方が興味深いのは確かだ。



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