天切り松闇語り5 


 2014.6.20     義理人情にあつい義賊 【天切り松闇語り5】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

久々の天切り松シリーズ。ずいぶんと昔に読んで依頼なため、キャラクターを忘れかけていたが、物語を読んでいくと自然と思い出すことができた。前作までは、強烈に義賊的な印象があったが、本作では少し印象が違ってきた。成長した松と、安吉一家の仲間たちもそれなりに年を重ね、落ち着いた雰囲気がある。

悪を倒すだとか、悪者から金をとり、貧乏な市民へ配るというたぐいではない。世間のしがらみや、どうしようもできない時代について悲しみながらも、今できることを精いっぱい力を尽くす安吉一家。すべてが丸くおさまる物語ばかりではない。微妙な後味の作品もある。どうしようもない現実を見せつけられたような感じだ。

■ストーリー

ご存知、目細の安吉一家が昭和初期の東京で大活躍。チャップリン来日を巡る陰謀とは・・・?江戸っ子の粋を体現した伝説の怪盗たちによる、痛快ピカレスクロマン。 五・一五事件の前日に来日した大スター、チャップリンの知られざる暗殺計画とは―粋と仁義を体現する伝説の夜盗たちが、昭和の帝都を駆け抜ける。

■感想
「男意気初春義理事」は、網走で死んだ大親分の葬儀を安吉が元日に行う。なぜあえて元日なのか。義理人情に厚い世界なので、不義理はできない。自分の幸せだとか、そんなことは二の次。義理人情をなによりも大事にする安吉一家の心意気が表れている作品だ。

そして、安吉一家の圧倒的なまでの押しの強さも描かれている。どんな理由があるにせよ、親の命令は絶対であり、不義理をすることは何よりもダメだ、という強い決意が伝わってくる作品だ。

「月光価千金」は、おこんが金持ちの男爵にプロポーズされる話。いい年になったおこんだが、金持ちのボンボンに見初められる。おこんの正体を知ったとしても…。おこんの戸惑いや、おこんが過去に恋をした話が面白い。

おこんはスリの技術をどのようにして学んだのか。馬鹿正直な男爵と、それに戸惑いつつも自分の信念を貫くおこんの行動に心打たれてしまう。自分の幸せや日々の安定を求めるのとは対極にある作品であることは間違いない。

「箱師勘兵衛」は、なんとも微妙な気分になる作品だ。二百三高地で死なせた部下の家族に援助を続ける寅弥の話だ。戦争が終わっても人知れず援助し続ける寅弥。たとえ、援助した家族は新しい家庭ができていたとしても、気持ちはかわらない。

なんだか切なくなる話だ。寅弥がどれだけ部下のことを思い、残された家族のためにと思ってやったことも、すべては意味がない。ろくでなしの男と再婚した女を責めることはできない。めでたしめでたしとはならない。なんだか妙にしんみりとしてしまう作品だ。

世間の流れを知っているからこそ、受け入れる。シリーズとしてかなり成熟された作品だ。



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