赤ヘル1975 


 2014.4.24    感動をよぶカープ初優勝 【赤ヘル1975】  HOME

                     

評価:3

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■ヒトコト感想

広島出身のオールドカープファンは、懐かしさにむせび泣くことだろう。貧乏球団の広島カープが初優勝を迎えた年、広島で生活するマナブは様々な経験をする。方言を含め、自分は地理的に広島に近い場所に住んでいたので懐かしさはある。強いカープも微かに知っているので、懐かしい。

関西弁以上に粗暴に聞こえる方言。赤い帽子が女の帽子のようで気に入らない。ふらふらと怪しい仕事に手を出すマナブの父親。そして、近所に住む原爆の後遺症に苦しむ老人。恐らくは、当時の縮図がここにはあるのだろう。リアルに当時を経験していれば、誰もが何かに思い当たる。この、懐かしい気持ちをくすぐる描き方はすばらしい。油断すると涙がこぼれそうなほど感情移入してしまう。

■ストーリー

1975年、広島カープ初優勝の年。三年連続最下位だったカープは、開幕十試合を終えて四勝六敗。まだ誰も奇跡のはじまりに気づいていない頃、やんちゃな野球少年のヤスと新聞記者志望のユキオは、東京から引っ越してきた“転校のベテラン”マナブと出会った。マナブは周囲となじもうとするが、広島は、これまでのどの街とも違っていた―。

■感想
世間の広島カープのイメージは弱い貧乏球団だろう。1975年に初優勝した年の広島を描いた本作。広島に住んだことはないが、涙がでそうになる。主人公のマナブが、最初は巨人ファンでありながら、最後にはカープファンとなる。父親がねずみ講まがいの商売に手をだし、親友の母親まで巻き込んでしまう。

子供の世界を描かせたら、作者の右にでる者はいないだろう。広島カープを通して子供たちの関係や、貧富の差、大人たちとの関係。すべてをひっくるめて、当時の広島の状況がまざまざと思い浮かんでくる。カープファンでなくとも、感じる何かはあるはずだ。

口は悪いが心優しい親友たち。マナブの周りには様々な人が存在する。日本で最初に原爆を落とされた都市。原爆の後遺症に苦しむ人々。よそ者のマナブから見た広島の衝撃は、広島という場所を訪れた誰もが一度は感じる感覚なのだろう。

原爆の思いを、切り絵でひたすら作り続ける近所のお爺さんの強い思いに戸惑うマナブの気持ちはよくわかる。何か、自分だけが蚊帳の外というか、不幸ではないことに申し訳ないような気持ちになる。広島という土地は、今では普通かもしれにないが、当時は何か他とは異なる異質さがあったのは間違いない。

広島カープ初優勝。特にファンでもないが、涙が出そうになる。貧乏球団で、選手たちの苦しい状況を描かれ、応援する広島市民たちの熱き思いを読まされると、感動せずにはいられない。ありきたりなスポーツ感動モノではなく、普通の人々の目線での物語なだけに、なおさらそう感じるのかもしれない。

立ち飲み屋でくだを巻く酔っ払いたち。学校の教師までも、休みをとって応援する。今では考えられない熱狂なのだろう。広島全体がひとつになった日でもある。偶然にも、2014年のカープもペナントレースの上位につけている。優勝はないと思うが、気になる存在になりつつある。

本作を読んだので、もしカープが優勝を争うようなことがあったら、応援してしまうだろう。



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