ゼツメツ少年  


 2013.11.11    現実と小説が入り混じる 【ゼツメツ少年】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者にしては珍しくファンタジーあふれる作品だ。現実の世界と小説の世界が入り混じり、小説の登場人物たちが作者に対して語りかける。イジメや心に闇を抱える少年少女たちが、このままだと自分たちはゼツメツしてしまうと言う。小説家のセンセイが、ゼツメツしそうな少年少女たちの物語を描く。

最初は単純にイジメに苦しむ子供たちを描いているのかと思いきや、後半になると、作者であるセンセイと会話し、小説内での立場を説明する。ありえない状況だが、ファンタジー感よりも強い悲しみを感じてしまう。少年少女たちを苦しみから救い出すことはできない。ただ、悲しむ人は沢山いるのだという、ちょっと悲しくなる物語だ。

■ストーリー

小説家のもとに、少年から謎の手紙が届く。「僕たちはゼツメツしてしまいます」少年2人、少女1人、生き延びるための旅が始まる―僕たちをセンセイの書いた『物語』の中に隠してほしいのです。ゼツメツ少年からの手紙は届きつづける。でも、彼らはいま、どこにいるのか。「大事なのは想像力です」手紙は繰り返す。やがて、ゼツメツ少年は、不思議な人物と次々に出会う。エミさん。ツカちゃん。ナイフさん。このひとたちは、いったい、誰―?

■感想
少年2人と少女1人。自分たちはゼツメツを避けるために、家出をする。センセイの書く物語は、辛さの中に救いがある。その救いをあえて拒否するように、少年たちは行動する。作者の過去の作品の登場人物たちが、少年たちと出会う。現実ではありえないが、小説の中ではなんでもありだ。

そんなファンタジーな状況を、戸惑いながらも受け入れるセンセイ。想像力をフル活用し、少年たちの状況を理解しようとするが、大人ではわからない独特な感性がそこにはある。ゼツメツへと向かう少年たちをどのようにして助けるのか。ファンタジーだが、明るく楽しいハッピーエンドにはならない。

過去の作者の作品に登場したキャラクターが再登場し、少年たちへアドバイスを行う。かといって、思いとどまらせるような力はない。現状を語り、「それでも頑張っている」ということを子供たちへ示すことで、子供たち自身に、何かを悟らせようとするのだろう。

作者のファンならば、過去の作品を思い出し、キャラクターへの思い入れから、より物語を楽しめるだろう。ただ、いちキャラクターにフォーカスされて、すぐさま思い出せるほどのファンではないので、正直辛かった。エミさんやツカちゃん、ナイフさんがどのような物語で描かれていたのか、まったく思い出せなかった。

不思議な人物たちとの出会いから、少年たちの心が変わっていくのか。少年少女たちの行動というのは、すでに悟りを開いているようにすら思えてしまう。自分たちはあるひとつの方向へ進むしかない。それを思いとどまらせることは、どのような大人にも難しい。が、悲しむ大人たちが沢山いることを作者は語りたいのだろうか。

本作のエピローグはものすごく印象的で、作者がなぜ今までにないファンタジーあふれる作品を描こうとしたのかが語られている。”緩やかな自殺”という言葉が強烈に頭に残っている。

リアルさだけではない、想像力が必要な物語だ。




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