夢違  


 2012.7.30   奇妙な夢の恐ろしさ 【夢違】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

夢を記録として残せる世界。そして、予知夢を見る女、結衣子。まず冒頭から、子供たちが狂乱におちいった原因を調査するあたりが恐ろしい。子どもたちは何に恐怖したのか。夢を解析することで、しだいにその正体が明らかになってくるのだが…。人の夢を解析し、モヤモヤとした恐怖の元凶をさぐりだそうとする。何が起きているかわからないが、恐ろしいという感覚を本作は味あわせてくれる。人の想像力の恐ろしさをたくみに扱うように、物語は、そのものズバリをはっきり描くことなく、恐怖感だけをあおっている。この手法は、作者の作品い多くみられるが、本作もまたすばらしい出来栄えとなっている。恐怖の元凶を探す旅は、はっきりとした正体が見えないまま終わっている。

■ストーリー

夢を映像として記録し、デジタル化した「夢札」。夢を解析する「夢判断」を職業とする浩章は、亡くなったはずの女の影に悩まされていた。予知夢を見る女、結衣子。俺は幽霊を視ているのだろうか?そんな折、浩章のもとに奇妙な依頼が舞い込む。各地の小学校で頻発する集団白昼夢。狂乱に陥った子供たちの「夢札」を視た浩章は、そこにある符合を見出す。悪夢を変えることはできるのか。夢の源を追い、奈良・吉野に向かった浩章を待っていたものは―。

■感想
恐ろしい。何が恐ろしいかというと、恐怖の正体がわからないのが、一番恐ろしい。子どもたちが集団で発狂した原因は?ひとクラス分の生徒たちが突然神隠しにあったように消えてしまう。巨大な濃い霧に包まれると、そこには行方不明だった子どもたちが…。予知夢を見る能力のある結衣子。その死んだはずの結衣子が、あちこちに登場してくる。夢か幻か。この世界で何が起こっているのか。人の夢の解析が可能な世界で、人の夢を見ることにどんな影響があるのか。不可思議な世界は恐怖に満ちている。

何が起きているのかわからないが、何かが起きているのは確かだ。序盤の子どもたちが発狂するあたりは、ジワジワと押し寄せる恐怖がある。そして、いつ出てくるかという、お化け屋敷のお化けを待つような気分に近いかもしれない。その後は、結衣子がらみで、夢に対して犯罪の香りが漂ってくる。人の夢を見るということは、人にどんな影響があるのか。ひとクラス分の子どもたちが突然消え去った理由とは?すべての鍵を握る結衣子を追いかける主人公たち。読者は、いつ恐怖の元凶が登場するかと、そればかりをビクビクしながら読むことになる。

夢からヒントを得て、各地を飛び回る主人公。その先にある未来というのは、予想がつかない。うすら寒くなるような展開と、サブリミナル的に怪しげな映像を読者に想像させる奇妙な夢。夢というのはなんでもありなだけに、人の想像力を刺激する怖さがある。夢と現実とのリンクは?結衣子は生きているのか?そして、結衣子の目的は?ミステリアスな展開に拍車をかけるのは、怪しげな登場人物たちと、意味ありげな出来事だ。これだけ材料がそろえば、読者は恐怖をおぼえることだろう。

夢をテーマとする時点で、どのようにでも人の恐怖をあおることができる。




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