夜を守る  


 2011.11.25  リーズナブルな定食屋が印象的 【夜を守る】

                      評価:3
石田衣良おすすめランキング

■ヒトコト感想

どうしても作者の看板シリーズであるIWGP(池袋ウェストゲートパーク)と比較してしまう。となると、舞台が池袋から上野に移っただけで、その他はすべての面でグレードダウンしているようにすら思えてくる。これはこれで、フラフラとした二十代中盤の男たちが、ガーディアンを名乗り街を平和にしていくというわかりやすい物語ではある。ただ、IWGPと比較すると切れ味やテーマがありきたりすぎると感じてしまう。他の作者が描いたのであれば、また感想は違っていただろう。IWGPの作者が描いたことで、二番煎じの印象は拭いされない。上野という街が、池袋とどう違うのかは、そこに登場する地名やリーズナブルな定食屋でしか差別化できないのは少しさびしい。

■ストーリー

上野・アメ横。繁、サモハン、ヤクショの3人はこの街で暮らす幼なじみ。仕事終わりにガード下の定食屋に集まるのを楽しみに生きている冴えない毎日だ。だが、通り魔に息子を殺されたという老人と知り合ったことで、アメ横の夜を守るべくガーディアンエンジェルを結成することに――。

■感想
若者たちがアメ横の平和を守るための活動をする。といっても、そこまで大げさではなくゴミ拾いや放置自転車の整理などだ。IWGPのトラブルシューターとはレベルが違うのだが、物語が進むにつれて、IWGPに近いような依頼が舞い込んでくる。ヤクザが登場してくると、まさにIWGPでしかない。ただ、そこまできな臭い事態にはならず、どこか穏便にあたりさわりのない終わり方になるのもポイントなのかもしれない。アメ横界隈で男たちが冗談を言い合いながら街の平和を守る。ほのぼのとした感じは良いのだが、IWGPと比較してしまうと微妙だ。

本作の売りとしてリーズナブルな定食屋の存在がある。一品が百円のつまみと焼酎のお湯割りで乾杯をする。食に関しての細かな描写や、登場人物たちのこだわりなどはIWGPにはない部分かもしれない。アメ横という街がそう連想させるのかもしれないが、夜の街を守るといっても、ギャング同士の抗争やヤクザの血なまぐさい争いではなく、ちょっとした酔っ払いのいざこざ程度に感じさせる雰囲気がある。ガーディアンの活動もそこまでリスクを負わず、最後に「福屋」で飲む芋焼酎のお湯割りを楽しみに活動しているような感じかもしれない。

キャラクターの個性は抜群で、公務員のヤクショや古着屋のサモハンなど、一発で頭の中で想像できるキャラたちだ。その他にも知的障害がある天才という、なんとも皮肉なストリートネームがついたキャラや、インテリヤクザがキャスターというネーミングセンスも抜群かもしれない。それらのキャラたちが上野の夜を守る。IWGPとの差別化は食べ物関係くらいかもしれないが、これはこれでほのぼのとして良いのだろう。最後の短編ではマジメに就職しようという気持ちが現れるのは、IWGPにはない、マジメな一面なのかもしれない。

一杯二百円の芋焼酎のお湯割りを、飲んでみたくなる。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp