夜の蝉  


 2011.10.4  「私」の成長物語 【夜の蝉】

                      評価:3
■ヒトコト感想
空飛ぶ馬の続編。前作では女子大生ながら、まだ子どもという印象があったが、本作では「私」の成長が感じられる作品だ。日常のちょっとした謎を、噺家である円紫がサラリと解くのだが、その部分はあまり重要ではない。「私」の友人や姉との関係が主に描かれ、そこにはちょっとした「私」の変化も描かれている。短編の最初に落語を登場させ、落語のポイントとなる部分が、現実の問題に関係してくるというパターンがメインだ。うまさは感じられるが、落語に詳しくないと少し辛いかもしれない。ただ、落語を知らずに読んだとしても、「私」の日常生活を通して、「私」が大人へとゆっくり成長していく様を感じられるのは、心地良い気分になれるだろう。

■ストーリー

呼吸するように本を読む主人公の「私」を取り巻く女性たち―ふたりの友人、姉―を核に、ふと顔を覗かせた不可思議な事どもの内面にたゆたう論理性をすくいとって見せてくれる錦繍の三編。色あざやかに紡ぎ出された人間模様に綾なす巧妙な伏線が読後の爽快感を誘う。「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」

■感想
日常のちょっとした謎と、「私」を取り巻く人間関係が絶妙にマッチしており、謎が特別魅力的でなくても、「私」の周辺で巻き起こる変化を楽しんで読むことができる。純朴な女学生という印象があった「私」が、少しずつ変化していく。「朧夜の底」では書店の本が上下さかさまにされる謎について、いつもの円紫が明快な解答を示している。ただ、それよりも「私」の周辺で起こる変化に興味がわいてくる。ちょっとした思い込みや、日常のくだらないいたずらなど、ここまでほのぼのとしながら、最後に薄ら寒い雰囲気をだしてくるのはすばらしい。

「六月の花嫁」は「私」に対して、何かしらの心境の変化を印象つけたいのだろうか。別荘で行われたちょっとしたいたずら。なんてことないいたずらなのだが、そこには深い意味がある。正直、円紫が「私」の話を聞いただけで結末まで連想してしまうのは、逆に恐ろしく感じた。人の心の中を見透かすようで、恐ろしくなる。本編ではそんな描写はいっさいなく、単純に友人のおめでたい出来事を楽しく語るという流れになっている。友達の変化ということで、「私」の自然な変化へと続けるのだろうか。

最後の「夜の蝉」はまさに、謎はどうでもいいが、物語のすばらしさばかりに目を奪われてしまう。姉妹、それ5歳差というのは大きい。姉は煌びやかで妹は地味。そんな姉妹関係が劇的に変化するのが本作だろう。姉の恋愛話から、姉妹の、特に姉の心境の変化など、兄弟をもつ者にはなんとなく思い当たる部分ではないだろうか。純朴な「私」が、姉の影響から少しずつ「女」へと変わっていく瞬間なのだろう。本作に限っては、円紫はほとんど存在感がない。あるのは、美しい姉と大人の姉妹関係になりつつある「私」の変化だ。

主人公が少しずつ変化していくのは、シリーズを読む楽しみでもある。




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