野球の国  


 2012.2.17  野球好きのプライベート旅行だ 【野球の国】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者のエッセイは面白い。ただ、それが旅エッセイとなると、とたんにごく普通のエッセイとなってしまう。つまり毒がなくなってしまう。本作では半分旅エッセイで、もう半分が野球エッセイだ。野球の部分は今までオリンピックの野球日本代表に対して「泳いで帰れ」というほどコアなファンだけに、その目の付け所は面白い。地方の野球場の面白さや、観戦する観客の特色など、作者のひねくれた感想がぴったりとはまりこんでいる。地方へ行き、そのへんの名物を食べて観光地をまわるだけなら、おそらく少しも面白くなかっただろう。野球というテーマがあり、なおかつ作者の普段の生活が少し垣間見える部分ありと、お得なエッセイだ。

■ストーリー

「一人旅は思いがけず楽しかった。/アローンだがロンリーではなかった。一人でどこにでも行けた」この小説家に必要なもの、それは―野球場、映画館、マッサージ、うどん、ラーメン、ビール、編集者、CPカンパニーの服…そして旅。沖縄へ、四国へ、台湾へ。地方球場を訪ね、ファームの試合や消化試合を巡るトホホでワンダフルな一人旅。

■感想
作者が独り者だということはわかっていた。ただ、日々の生活は想像つかなかったが、本作を読むことでなんとなくわかってきた。長時間熟睡できず、服はこだわりのブランドがあり、食は細いがいろいろなものを食べたがる食通で、マッサージが大好きらしい。かと思うと、めんどくさがりで目覚まし時計の電池が切れても交換せず、外にでるのがめんどくさいと観光地でホテルのルームサービスを食べる。なんだか、矛盾しているようだが、作者の自由さが伝わってくる部分だ。

野球好きの作者らしく、球場での野球観戦を心から楽しんでいる。なにかにつけて難癖をつける作者が、ほぼすべての球場をべた褒めしている。球場から帰る道のりが大渋滞したとしても、笑って許せる広い心を持っている。にも関わらず、締め切りに追われると神経質になり、小説が書けないと悩んだり、一人旅のグチを言ったり、作者の二面性のようなものも見えてきた。作家という仕事が大変なのはわかるが、作者の生活だけを読んでいると、とても自由気ままで羨ましくなるような生活に思えてしまう。

地方へ一人旅をし、そこで一人で食事をする。これをすんなりやってしまうのは、お一人様に慣れている証拠だろう。他のエッセイなどを読むと、多少ひねくれてはいるが、社交的で面白おかしくワイワイ騒ぐのが好きなタイプかと思ったが、意外にもそうではないらしい。本作では野球好きという以外に、今までのエッセイではあまり伝わってこない、作者のプライベートな部分や、普段の生活なども描かれているので、なんだか作者がぐっと身近になったような気がした。

あまり毒はないが、作者のプライベートがうっすらと見えてくるのが新鮮だ。




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