泳いで帰れ  


 2011.9.7  野球日本代表に怒る 【泳いで帰れ】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

タイトルは作者のアテネオリンピック野球日本代表に対しての怒りの気持ちのようだ。オリンピック観戦紀だが、競技についての細かな知識や選手の情報はない。専門のライターではないので、素人目線で、ただ、ふらりとオリンピックを観戦するという感じだ。メインはもちろん野球なのだが、それ以外に柔道やマラソンなど日本がメダルをとる可能性がある競技も重点的に観戦している。ギリシャでのホテル生活や、エーゲ海クルーズでの出来事を面白おかしく描き、灼熱のギリシャへグチをつづる。確かに面白いが、作者らしい毒が吐かれているのは、野球の場面だけだ。それ以外はごく普通のアテネでのオリンピック観戦紀となっている。作者のエッセイは面白いので、もっと強烈な毒を求めてしまった。

■ストーリー

行動しない作家・奥田英朗が、なぜか、アテネオリンピックを観戦することに。ギリシアの強烈な日差しの中、思い至ったその境地とは。

■感想
どうやら直木賞をとってすぐアテネに向かったらしい。売れっ子作家の仲間入りをし、飛行機はビジネスクラスでホテルは一流、顎足つきのオリンピック観戦というのは、さぞかし楽しいことだろうと思ったのだが、灼熱のアテネに少し嫌気がさしたようだ。旅行エッセイにありがちな、文化の違いについての記述は少ない。あるのは、オリンピックを観戦するときの国によるテンションの違いだ。本作を読むと、海外の応援というのが、やけに楽しそうに感じてしまう。作者もそれは理解しているらしく、人種の違いなどを含め、面白おかしく描いている。

本作のメインは野球観戦だが、そのあいまに柔道やマラソンの観戦と、エーゲ海クルーズがある。ここでも出身国の違いによる困惑というのが描かれている。特徴的なのは、このエッセイを読んだからといって、エーゲ海クルーズに行きたいと思わないことだ。あまり褒めることはせず、気になったことばかり書いているようだ。もしくは、本当にエーゲ海クルーズがハズレだったのかもしれない。オリンピックでメダルをとる感動を作者独特の視点で描き、大活躍した日本人たちを懐かしく思い出すことができる。

野球観戦については、結果が結果だけに、タイトルのように怒りの言葉が続いている。プロを含めたドリームチームのはずが、銅メダルという結果になり、結果よりも高校野球のような手堅いスタイルに怒りを覚えている。まだ、WBCが始まる前なので、コアな野球ファンとしての怒りはひとしおなのだろう。当時のことをあまり覚えてはいないが、日本の世論はそれほど長島ジャパンを叩いていなかった気がする。そんな風潮の中で、作者だけが自分の主張を覆すことがない。確かに本作を読んでいると、ふがいない戦いに怒りが増幅するような気がした。

今、冷静になるとどうってことないが、当時、リアルタイムに本作を読んでいたら、同じ怒りを感じていただろう。




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