2013.3.19 暗躍する女 【噂の女】
評価:3
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■ヒトコト感想
何かと噂になる女。特別美人ではないが、男好きしそうな肉感的な女。糸井美幸という、どの場所においても噂になる女が、実は裏ではとんでもないことをやっていたというお話。あくまでも噂レベルであり、真実ははっきりと明言されない。
それでも、噂を総合すると、すべては美幸が計算ずくでやっていたことのように思えてくる。周りの出来事のみ詳細に描き、その中心にいつも存在する美幸。このパターンはまさしく東野圭吾作品の「白夜行」と同じだ。
多少ライトな雰囲気はあるにせよ、料理教室や雀荘や、パチンコ店など、様々な場所に出没する美幸の正体不明な怪しさというのは、読んでいて恐ろしくなる。ラストはしっかりと逃げ切るのは、噂の女として申し分ない。
■ストーリー
中古車店に毎晩クレームをつけに通う3人組、麻雀に明け暮れるしがないサラリーマン、パチンコで時間をつぶす失業保険受給中の女、寺への寄進に文句たらたらの檀家たち―。鬱屈した日々を送る彼らの前に現れた謎の女・美幸。愛と悲哀と欲望渦巻く連作長編小説。
■感想
男好きする女、美幸。最初は連作短編としてあまり面白さを感じない。ただ、噂の女が中古車店にいるというだけで終わっている。その後、雀荘に登場する美幸。ここでも噂が起こるが、まだなんの事件や怖さを感じることはない。ただ、すでに最初から伏線がたっぷりと用意されていたと、後で気づくことになる。
美幸は最初からすべてを計算していた。短編ではメインとなる登場人物がおり、それと関わるように美幸が登場してくる。どの短編でも、美幸は男を虜にする魅力を放つことだけが共通している。
美幸は、噂にはのぼるが、はっきりと何か事件を起こしたという記述はない。周りが噂をし、そう考えているだけ。何か問題が起きると、その裏では、実は美幸が関係していた。影響を受ける男側からしてみると、美幸はなんとやっかいで扱いずらい存在なのだと思わずにはいられない。
最初はただの噂の女だった美幸が、後半ではとんでもない悪女のように思えてくる。そして、その悪女の印象をさらにパワーアップさせる出来事の数々がさらに起きることとなる。
後半では、とうとう警察組織が動き出す。そこでも美幸は偶然かそれとも狙ってなのか、気づけば危機をのりこえている。「白夜行」のように美幸の事件を詳細に調査する状況になりかけるが、偶然の要素から、そうはならない。
物語全体として、シリアスな雰囲気よりも、ライトな雰囲気の方が強いので、どこかユーモラスに感じてしまう。美幸に騙された人々も、「ああ、じょうがない」と悪い女にひっかかった的な印象が強い。この軽さが作者の特徴でもある。
「白夜行」風だが、より軽くサラリと読める。
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