2011.10.26 世界の行き着く先は 【歌うクジラ 下】
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻から引き続き、極限まで階層化された世界でアキラが得体のしれない目的地へと向かう。SW遺伝子による不死と、文化経済効率化運動によって平準化された世界は、まるで世界の最終的な行き着く先のような印象をうける。頭の中に直接ひびいてくる言葉。宗教や超常現象ではなく、すべてが科学的に仕組まれた世界となる。階層化された世界では、層によって役割分担があり、衝撃的な世界という印象しかない。究極まで利便性や快適さを求めた結果、階層化された社会となり、すべての人間がこの世界が理想だと語る社会になるのだろう。すべては夢物語だと思う反面、そうなりかねないという恐ろしさがある。人間の行き着く先が野生動物なのか、それとも宇宙なのか、二極分化された恐ろしい未来だ。
■ストーリー
見知らぬ声に導かれるように、果てしない旅は続く。やがて青い地球を彼方に眺める宇宙空間に想像を絶する告白が。
■感想
アキラが進む世界は、とんでもない未来だ。人口増加や食糧不足などの問題をすべて解決し、快適さだけを究極までにもとめた人間の最終形態がそこにはある。アキラが呼びよせられた目的も衝撃なら、そこで生活する最高権力者であるヨシマツも衝撃的だ。すべて完璧を求めた社会が、少しのひずみから崩壊へ近づき、そのときとった選択は自然に帰るということらしい。科学の粋を集めた人間の最終的な理想郷が野生の生活というのは、なんだか皮肉に感じてしまう。
最高権力者であるヨシマツの生活は、野生へと向かわないもう一つの選択の最終形態なのだろう。宇宙へと飛び出し、すべての快楽を貪る。体という不安定なものを捨て去り、脳だけがその個人を特定するという科学の進化の最終局面なのだろう。現在の世界を考えると、このヨシマツの状態というのは、ありえる話だと思えてくる。死の不安がなく、何もかも手に入れた者にとっては、どんな生活が理想となるのか。人間の本来の形というのを常に問われているようにも感じた。
階層化された社会ではあるが、それぞれの層では理想的な世界となっている。その層にいる人たちは、上の層の存在を知らずただ日々を生きているだけ。現在の世界の縮図を見ているようで恐ろしくなる。形は違えど、現代の生活に埋没し、飼いならされた人々は、多少の文句はあるが、今の現状を受け入れている。本作は、まるで今の自分たちの生活を極端に描き、最上層の支配者たちにすべてを牛耳られる世界をわかりやすく過激に描いているような気がした。
人間の行きつく未来を予言しているような恐ろしさがある。
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