中途半端な密室  


 2013.10.20     小粋な安楽椅子探偵 【中途半端な密室】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

作者の特徴がよくでている短編集。「密室の鍵貸します」の元ネタとなったような短編まである。敏ちゃんとミキオのコンビがミステリーを解決するのがメインなのだが、ユーモアがあり、安楽椅子探偵として鮮やかにトリックを暴く場面などは圧巻だ。ただ、全体的に軽い雰囲気なので、重厚な事件はいっさいない。なんとなくトリックが予想できる短編もあるが、予想外のトリックもある。

作者の特徴であるキャラクターの面白さと会話のユーモアは秀逸だ。誰も傷つかないユーモア。小粋なジョークという感じだろうか。トリックは特別複雑ではなく、ストーリーもシンプルなので、ミステリー初心者にはうってつけだろう。ミステリーを読み慣れている人には、少し物足りなく感じるかもしれない。

■ストーリー

テニスコートで、ナイフで刺された男の死体が発見された。コートには内側から鍵が掛かり、周囲には高さ四メートルの金網が。犯人が内側から鍵をかけ、わざわざ金網をよじのぼって逃げた!?そんなバカな!不可解な事件の真相を、名探偵・十川一人が鮮やかに解明する。(表題作)謎解きの楽しさとゆるーいユーモアがたっぷり詰め込まれた、デビュー作を含む初期傑作五編。

■感想
「南の島の殺人」は、かなり意外だった。ある男の全裸死体があった。旅先から友達がだしてきた手紙を受け取り、敏ちゃんとミキオが推理するのだが…。全裸死体がミステリーの肝かと思いきや、実はそうではない。ポイントは手紙に書かれた「S島」という場所だ。

読者の目をある場面にフォーカスしつつも、実際にポイントは別にある。S島の謎が解ければ、そこから数珠つなぎにトリックが解明されていく。鮮やかな手並みと、最後に手紙をだしてきた友達へ小粋な返事を書く。このオチのパターンは好きだ。

「竹と死体と」は、誰もが想像するトリックを、もうひとひねりした感じだ。大昔の新聞にこんな記事があった。ある老婆が竹に紐を掛け首を吊っていた。それも17メートルの高さに…。ポイントは竹だというのはすぐにわかる。となると、誰もが想像するのは、首吊り時点では低い位置にあったが、竹が成長し17メートルの高さになったということだ。もちろん、作中でもそのあたりに言及されている。トリックを連想し、それに裏切られる形で別のトリックを示されると、大きな驚きとなる。強烈なインパクトはない。それでも、印象に残る作品だ。

「有馬記念の冒険」は、まさに作者の長編作品の「密室の鍵貸します」の元ネタだ。有馬記念のスタート直後に男は襲われた。容疑者と思われる男の隣の部屋に住む男たちは、同じく有馬記念のゴールをテレビで見ながら隣の男の姿を見ていた…。

アリバイトリックのひとつだが、有馬記念をテレビ観戦する場面が3つ存在する。論理的に考えると人が瞬間移動するしかない。なぜ?という疑問は、「密室の鍵貸します」を読んでいれば、すぐに連想できるだろう。先によりすぐれた長編を読んでしまったので、オチは連想できたが、それでも十分楽しめる作品だ。

作者のファンならば読んでおくべき短編集だろう。




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