密室の鍵貸します  


 2013.5.15     明るくライトなミステリー 【密室の鍵貸します】

                      評価:3
■ヒトコト感想
ライトな雰囲気のミステリー。先輩の家で酒盛りをしていた流平が、いつのまにか密室殺人の容疑者となる。狂言回し役が流平で、名探偵として鵜飼が登場する。ただ、この鵜飼のキャラがステレオタイプな探偵でありながら、名探偵ではないところが特徴だろうか。必ずしも鵜飼の推理が正しいわけではない。多少冴えたひらめきをみせるが、間違う場合もある。

鵜飼を補完するような人物が必要となるが、それが砂川警部だ。本来なら警察の捜査をバカにしながら名探偵が鮮やかに解決するパターンのはずが、砂川が意外なほどきっちりと推理する。密室殺人事件がメインだが、そこに恨みや妬みはない。変なユーモアにあふれたミステリーだ。

■ストーリー

しがない貧乏学生・戸村流平にとって、その日は厄日そのものだった。彼を手ひどく振った恋人が、背中を刺され、4階から突き落とされて死亡。その夜、一緒だった先輩も、流平が気づかぬ間に、浴室で刺されて殺されていたのだ!かくして、二つの殺人事件の第一容疑者となった流平の運命やいかに?ユーモア本格ミステリの新鋭が放つ、面白過ぎるデビュー作。

■感想
烏賊川市という、馬鹿にしたような名前の市で巻き起こるミステリー。流平が先輩と酒盛り中に、先輩がいなくなり、気づけば風呂で倒れる先輩。いつの間にか密室状態となり、先輩を殺した犯人の姿は見えない。典型的な密室ミステリーだが、キャラクターのユーモアさで変化を与えている。

流平がテンパった状態となり部屋から逃げ出し、鵜飼に助けを求めるという一般常識からはかけ離れた行動と、鵜飼もまった後先考えない無鉄砲さが強烈だ。鵜飼の茶化したような口調と、深刻さを感じさせない行動により、ふらりと散歩に行く程度の気楽さに思えてしまう。

密室ミステリーについては、最初は流平が推理し、その後鵜飼が推理する。どちらも決定的な回答ではない。よくある名探偵モノのように、何もかも知り尽くした名探偵という描写ではない。知識はあるが場当たり的に事件を推理する鵜飼。頼りなく感じる鵜飼の存在が、物語を面白くしている。

圧倒的な能力をもつ探偵であれば、読者を置いてけぼりにし、さっさと頭の中で事件を解決してしまうが、鵜飼はそんなことはない。地道にあちこち動き回り、事件のヒントを集め推理する。

鵜飼の頼りなさをカバーするのが砂川刑事だ。砂川と志木のコンビは良い味をだしている。間抜けな刑事コンビかと思いきや、砂川は冴えた推理を展開する。有能な刑事というだけではない。

集中力を発揮すればすばらしい能力を見せるが、普段はやる気ないモードの砂川。それに志木がなんだかんだと文句を言う。抜群のコンビネーションで、事件を引っ掻き回しておきながら、最後はそれなりに活躍する。ここまで探偵と刑事が同じレベルで推理を展開させる物語も珍しいだろう。

明るくライトな密室ミステリーだ。




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