2013.11.20 古臭さが逆に新鮮 【チェーン・スモーキング】
評価:3
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■ヒトコト感想
20年近く前のエッセイ集。そのため、登場してくる言葉は懐かしさを通り越して、天然記念物的な印象を持ってしまう。特に個人名などは、今やとてつもない大御所であっても、当時はそうでもないらしく、作者が呼び捨てにしていたりすると、時代の流れを感じずにはいられない。エッセイの中でひとつの出来事があり、まったく別の出来事がある。
最後にはそれぞれがタイトルと関連したオチとなる。考えられたエッセイだというのはすぐにわかるのだが、いかんせん時代の古さばかりが気になってしまう。電話ボックスに小銭を入れる描写だとか、マイクタイソンの東京ドームの試合だとか。自分が小学生時代に経験したことが、周辺描写として登場してくるのは、なんだかものすごく違和感を覚えてしまった。
■ストーリー
古書店で手にした一冊の本に書き込まれていた言葉。公衆電話で演じられた人生の一場。深夜にタクシー・ドライバーと交わした奇妙な会話。…エピソードの断片はさらなるエピソードを呼び寄せ、あたかもチェーン・スモークのように連鎖しながらひとつの世界を形づくる―。同時代人への濃やかな共感とともに都会の息遣いを伝え、極上の短篇小説を思わせる味わいのエッセイ15篇。
■感想
20年ちかく経てば、当然時代も変わる。その中でも中島みゆきや将棋の大山名人やマラソンの瀬古などと、当たり前のように同時代を生きている作者に驚いてしまう。相手を大物として扱うわけでもなく、気軽に飲んだりもする。作者はそれほど大物なのか?という変な錯覚を覚えてしまう。
向田邦子と会話しそこねたとか、下手したら偉人的あつかいになりえそうな人物と接点を持っていたり。なんだか昔のこととはいえ、今考えると、とんでもない大物たちと若いころに交流をもっていたのだと思わずにはいられない。
「走らない男」は、空港で飛行機に乗り遅れそうになり、走ることが多いということを作者が描いている。ただ、飛行機へ乗り込む描写もやはり特殊だ。今と違ってネット予約なんてできるはずもない。搭乗手続きもかなり時間がかかっていたことだろう。にもかかわらず、出発3分前に空港に到着するなんていう暴挙もある。
頻繁にあちこち移動する作者だからこそ、飛行機に乗りなれた結果、少々の遅れは気にならないのだろう。なんだか効率化された今であっても、この感覚に自分はなれないだろうなぁと、国内線出発一時間前には空港にいる小心者の自分は思った。
「信じられない」は、作者が日ごろ経験した信じられない出来事がつづられている。ただ、最後にはそれぞれのエピソードには、信じられないことをする理由があるのではないか?という締め方になっている。確かに作者が目撃した状況だけでは、信じられない。よぼよぼのお婆さんが立っているバスの中で、若い男がシルバーシートに座る状況は信じられない。
結局、内情がわからないまま、自分本位の考え方で基準からズレているので、信じられないと思うのだろう。理由がわかれば…。という流れになってはいるが、なんとなくだが、大した理由もなく信じられない状況そのままのような気がしてならない。
古臭さが逆に新鮮に感じてしまうエッセイ集だ。
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