追伸  


 2011.7.19  男と女の問題はややこしい 【追伸】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

現代と過去をふくめた男と女の問題。書簡形式で物語がかたられ、女が心の奥底にかくしもつ何かを探りだすというのが大きな流れだ。最初は単純な男と女の痴話げんかのたぐいかと思ったが、それが祖父の代にまでさかのぼり、祖母の秘密がかぎとなる。本作はおそらく、男と女で大きく印象が変わるだろう。男の誠実な手紙に対して、女の最後の最後まで必死に隠そうとする何か。秘密を守るため平然と嘘偽りを手紙に書くあたりで、多少のイラ立ちを感じてしまう。最後には、すべてを覆いつくすようなやむをえない理由があるのだろうと考えていたが、そうはならなかった。男の立場からすると、やりきれない気分になる。本作を純愛として読むには多少無理があるが、秘密が明かされるくだりは心が熱くなる。

■ストーリー

山上悟はギリシャに赴任するが、妻の奈美子は日本に留まり一方的に離婚を切り出した。真意を問いただす悟に、奈美子は自分の祖父母の間で交わされた手紙のコピーを送る。50年前、祖母は殺人の容疑で逮捕され、手紙には夫婦のみが知る真実が語られていた―。人間が隠し持つ秘密を手紙が暴き出すミステリー。

■感想
突然離婚をつきつけられ、理由をたずねる手紙をだし続ける男。はっきりとしない理由を返信する女。何か秘密があることをにおわせつつも、祖母のもつ秘密が物語の鍵となる。すべてが手紙形式の物語のため、情景描写というのはなく、ほぼ一対一の言葉の応酬という感じだ。嘘偽りのない誠実な男が信じた女とはどのような人物だったのか。女が心の奥底に隠しもっていた秘密というのは何なのか。事件が起こり、解決するたぐいのミステリーではない。あるのは、女の秘密を暴くという、ただそれだけだ。

本作を男、女、どちらの目線で読むかで大きく印象は違ってくるだろう。男目線で読むと、読み終わったあと、なんともやりきれない思いが残る。信じた女の秘密が明らかになりつつあるとき、そんな状況であっても、女は秘密を隠すための嘘を手紙に書きつづる。たとえ女の嘘が男のためを思っての嘘だったとしても、納得いかない。もし、本作の男に感情移入したとしたら、男の誠実さを裏切る女の行動に対して、怒りしか覚えないだろう。せめて最後には、やむをえない事情というのを付け加えてほしかった。

本作を女性が読んだらどのような感想をもつだろうか。女の行動に共感し、しょうがないという気になるのか。それとも、誠実な男を裏切る女を許せないと思うのか。夫婦だからこそ通じる何かを信じるのか、それともバカ正直に女を信じた男が間違いだったのか。男の誠実さを裏切るような女の行動を、女性がどう思うのか気になるところだ。手紙につづられる、次々と見えてくる真実に驚き、物語の流れが予想外の方向へ動いていくのをただ読み進めるしかない。もどかしい気分になりながら、これほどはまり込んでしまったのかと驚いてしまう。

男と女の問題は、いつの時代もややこしいものだ。




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