塩の街  


 2011.11.3  崩壊しかけた世界での愛 【塩の街】

                      評価:3
■ヒトコト感想
塩害という、人が塩になってしまうという奇病が蔓延する世界。崩壊寸前の世界で暮らす元自衛官と少女の物語。最初はちょっとしたSFかと思いきや、物語はちょっとしんみりし、心に染み渡るライトなラブストーリーとなっている。親しい人がある日突然塩になってしまう世界では、1日1日がとても貴重なものなのだろう。秋葉と真奈の生活を読んでいると、悲しい世界の中にも希望に満ちた光を感じることができる。体中が痒くなるような恥ずかしい描写もあり、恋愛小説が苦手な人には一部受け入れられないかもしれないが、塩害の世界でたくましく生きる二人を読んでいると、不思議に元気がでてくる。世界が終わると思われた時であっても、人は食事をし、痴話げんかをするのだ。

■ストーリー

塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女、秋庭と真奈。世界の片隅で生きる2人の前には、様々な人が現れ、消えていく。だが―「世界とか、救ってみたくない?」。ある日、そそのかすように囁く者が運命を連れてやってくる

■感想
キャラクターが秀逸だ。特にぶっきらぼうだが優しさにあふれる秋庭が良い。真奈はまだお子様という雰囲気があり、世界が崩壊しかねない場合であっても、好きという気持ちを抑えられないその姿は、純粋さの塊のような存在だ。二人の主人公に負けない存在感を放っているのは、司令官である入江だ。すべてを先読みし、丁寧な語り口の中に有無を言わさぬ迫力を隠す男。入江ならばすべてを予測し、何もかも自分の思うとおりにする憎たらしい男のように思えるが、とてつもない魅力がある。リスクとリターンを天秤にかけたその会話を読んでいると、痺れてしまう。

塩害の世界はどうなっていくのか。冒頭から短編形式で塩害の世界の悲しさが描かれ、後半は塩害から日本をどのように救っていくのかが描かれている。外伝的な物語はちょっとベタな恋愛風味だが、本編はすばらしい。塩害とはどのようなもので、その悲しさと愛を描き、塩害にほんろうされる人々を描き、最後には塩害の秘密を解き明かす。それらにはすべて秋庭と真奈の二人が密接にかかわり、時間の経過と共に、二人の関係が進展していくのはすばらしい。崩壊した世界の中で、かすかな希望が見えてくると、不思議な活力がわいてくる。

塩害に感染した人間は、例外なく体が塩になってしまう。人間の形を残したまま塩になるという衝撃と、ジワジワと体を蝕んでいくことが、物語に悲壮感と取り返しのつかない重要さを印象づけている。自分の愛する人が塩になってしまったら、という恐怖にさいなまれながら日々を生きなければならない。作中では、愛する人を救うためという、カッコいいセリフが登場するが、そのあたりはなぜか変に覚めた目で読んでしまった。愛がすべてを救うなんて都合の良いことにならなくてよかった。悲劇は悲劇として描く本作だからこそ、生き残った人の思いというのが伝わってくる。

崩壊した世界の中でのかすかな希望は、目にまぶしいほど輝いて見えてしまうのだろう。




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