東京物語  


 2011.1.28  明るく前向きな重松清だ 【東京物語】

                      評価:3
■ヒトコト感想
世代は違うが読んでいて懐かしさがこみ上げてくる。作者の人生がそのまま描かれているような作品だが、ワクワクしてくる。特別波乱万丈の人生ではなく、名古屋から状況した一人の男が東京でどのような生活をするかが描かれているだけだ。それだけなのに、読んでいて楽しくなるのは、青春を感じるワクワク感のせいかもしれない。すべてが順風満帆ではなく、かといって大きな困難にぶち当たるわけでもない。どこにでもある平凡な東京生活なのかもしれないが、それだけに等身大の楽しさというのがある。世代は違うが登場してくるアイテムには懐かしさを感じずにはいられない。ベルリンの壁崩壊や江川初登板。作者と同世代が読めば必ずはまりこむだろう。

■ストーリー

1978年4月。18歳の久雄は、エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りする退屈な町を飛び出し、上京する。キャンディーズ解散、ジョン・レノン殺害、幻の名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊…。バブル景気に向かう時代の波にもまれ、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく久雄。80年代の東京を舞台に、誰もが通り過ぎてきた「あの頃」を鮮やかに描きだす、まぶしい青春グラフィティ。

■感想
名古屋から上京しフリーのライターとして生活する主人公。浪人時代の東京に対するコンプレックスや仕事に対する考え方など、特別インパクトのある事件や出来事が起きるわけではないが、そのなんでもない日常の中のちょっとした変化が面白い。名古屋から東京へ出てくることに、それほど抵抗はないように思えるが、作者は違っていたのだろう。東京という地を何かすべてにおいて完璧な場所のようなイメージを持っていたかと思えば、三十路前になればその東京へ染まりきっている。都会へ染まる若者の典型のような気がした。

作者とは世代が違うため、登場してくる懐かしの出来事に対しての印象は違う。中にはまったく知らないが、その当時は盛り上がったのだろうという出来事もある。ただ、物語の合間にその懐かしアイテムが登場してくることで、そこが何十年も前なのだと気付く。時代設定が違うと、こうも印象が違うのかと驚いた。内容はその時代の青春物語なのかもしれないが、バブルという時代独特の浮かれた世相が物語のあちこちに登場し、今とはまったく別世界のように感じさせる。

作者の分身でもある主人公のキャラクターが良い。ウジウジと悩むでもなく、かといってオラオラ系でもない。どこにでもいる普通の明るい青年で、フリーランスの仕事をしているというだけだ。悩みはあったのだろうが、それよりも東京生活で出合った人々との交流を描いている。三十までをモラトリアムな時期と位置づけ、モラトリアムな時期をフリーランスという立場で過ごし、最後にはそのことに対して思いを語る。今や立派な作家となった作者も、過去にはこんな考え方を持っていたのだなぁと勝手に想像してしまった。

上京を描くといえば、重松清を思いだすが、明るく前向きな重松清といった感じだろうか。




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