時計館の殺人  


 2011.4.7  新鮮なトリック 【時計館の殺人】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

シリーズの定番とも言えるオーソドックスなミステリ。大量の時計に囲まれた怪しげな洋館で繰り広げられる降霊儀式。特別な儀式ということで、館に閉じ込められ、身の回りのモノを外さなければならない。この巧みな制約条件によって、トリックは成り立っている。閉ざされた洋館で起こる連続殺人事件。このシリーズではあたりまえになった隠し通路のたぐいは存在する。しかし、それはほとんどトリックに影響はない。正直、トリックは直前までわからなかった。時計館というタイトルにぴったりのトリックなのだが、すべての伏線がしっかり活きている。時計というものをこれほどうまく使い、トリックとして成立させているのはすばらしい。結構な数のミステリを読んだが、かなり新鮮な部類に入るトリックだ。

■ストーリー

館を埋める百八個の時計コレクション。鎌倉の森の暗がりに建つその時計館で十年前一人の少女が死んだ。館に関わる人々に次々起こる自殺、事故、病死。死者の想いが時計館を訪れた九人の男女に無差別殺人の恐怖が襲う。凄惨な光景ののちに明かされるめくるめく真相とは。

■感想
奇妙な館を作り続けた中村青司。このシリーズの定番なのだが、怪しげな洋館にはまたしても隠し通路のたぐいは存在する。それをわかって読むというのもあるが、本作に限って言えば、隠し通路などどうでも良くなっている。トリックを成立させるために、多数の伏線が用意され、それが不自然ではない。降霊儀式そのものは怪しげだが、洋館に閉じ込められるというのも企画として成り立ちそうな気がした。物語としては、当初から怪しい人物が、犯人として名前があがり、そのまま結末までいこうとする。このまま終わったとしたら、面白くもなんともない平凡なミステリだという印象しかなかっただろう。

作者はしっかりと読者の期待を裏切らないトリックを用意していた。必ず何かあると思ったが、このトリックだとは思わなかった。まったく予想外であり、そのスケールの大きさに驚いた。事件が発生したそのときのトリックもそうだが、事件の原因となる出来事に対して、トリックの元となるものが使われている。都合よく事件を起こすために用意されたトリックではない。屋敷を作った当初から綿密な計画の元、練りこまれた仕組みだということがわかる。これだけでも、かなり衝撃的な物語だ。

霧越邸殺人事件なみに長い物語だが、それほど長さを感じなかった。次々と事件が発生するが、そのあたりは特別な見立てもなくオーソドックスだ。このオーソドックス感が逆に新鮮で、ここからどういったトリックで、驚かせてくれるのか、そのあたりに興味がわいてきた。物語的には、過去の出来事が事件に大きな影響を与えているという流れとなり、否が応でも、とっぴな犯人像を想像してしまう。もしかしたら、ある程度犯人の可能性を絞り込めるかもしれないが、トリックまで看破できる人はいないだろう。まさかという驚きは強い。

限定されたシチュエーションだからこそ成り立つトリックだが、すばらしい。




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