2013.12.3 少年が凶行に手を染めた理由 【血の味】
評価:3
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■ヒトコト感想
純文学だがミステリー的な面白さがある。冒頭から衝撃的な告白があり、中学時代にいったい誰を殺したのか?というのが、回想形式で語られる。退屈な日々を過ごす中学生が、どんな経緯で凶行へと走ったのか。常に何かに不満を持ち、それを解決しようとしない。ありがちなドロップアウトしかけた中学生だ。
父親と二人暮らしで、目立った素行不良はない。ただ、言いようのないイライラのはけ口を求め、日々を彷徨うといった感じだろうか。現在の描写から過去につながる過程で、刺殺した相手に対するヒントがでてくる。それをそのまま鵜呑みにすると、ラストには大きな驚きが待っている。家族のあり方や、突然の殺意の意味を考えさせられる作品だ。
■ストーリー
「中学三年の冬、私は人を殺した」。二十年後の「私」は、忌まわしい事件の動機を振り返る――熱中した走幅跳びもやめてしまい、退屈な受験勉強の日々。不機嫌な教師、いきり立つ同級生、何も喋らずに本ばかり読んでいる父。周囲の空虚さに耐えきれない私は、いつもポケットにナイフを忍ばせていた……。「殺意」の裏に漂う少年期特有の苛立ちと哀しみを描き、波紋を呼んだ初の長編小説。
■感想
退屈な日々を過ごす中学生が、ある日起こした凶行。成長し更生した主人公が、中学時代に犯した殺人を回想する。陰鬱な日々の原因は不明確だ。何かにイラ立っているのは確かだが、その明確な原因がわからない。それが青春特融のあいまいさなのだろうが、あるゆることに腹を立てているように思えてしまう。
不機嫌な教師や、いきがる同級生、あげくは何もしゃべらず本ばかり読んでいる父親まで。怒りの理由はあいまいだが、怒りの強さははっきりと伝わってくる。ドロップアウトしかけた少年が感じる理由のないイラ立ちが強烈なインパクトで描かれている。
現代から過去を回想するきっかけとして、少年に熱視線をおくる男を目撃するというのがある。この描写から、過去に犯した殺人というのは、中学時代にいたずらされ、その腹いせによるものかと想像した。物語はその推理を裏付けるように、元ボクサーのオカマが登場する。
少年と銭湯で出会い、親しくなり話をするようになる。そのまま、予想通りの流れとなり、少年がオカマをナイフで刺す描写まである。それが結末ではない。殺人を犯したというのは、別の人物に対してだということがわかる。このあたりの流れは衝撃的すぎる。
ラストはあまりに残酷で、言いようのない悲しみを感じてしまう。なぜ、少年はそのような行動に出たのか。それらしき理由は説明されているのだが、到底納得できるものではない。何かに怒りを持っていたとしても、その怒りをぶつける矛先としては、あまりに見当違いだ。
作中では、少年の心の葛藤と、回想により、なぜそのような行為におよんだかが語られている。少年にとって、もしかしたら唯一の理解者となりえた存在のはずが…。少年特融のイラ立ちと一言で済ませることのできない、問題満載のラストだ。
少年の凶行の理由は、最後まで理解できなかった。
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