鉄のライオン  


 2011.5.28  80年代の青春 【鉄のライオン】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

80年代に、青春を東京ですごした人にはたまらない作品だろう。年代的には違うが、バブル期の東京というのを感じつつ、よく知らないはずが、変な懐かしさを感じた。作者の実体験もいくつかあるのだろう。田舎から上京した大学生にとって、東京は夢の町のように思えてしまう。変に背伸びしてみたり、強がってみたり。そんな青春時代の青臭い若者の思いというのがビンビンと伝わってくる。同じ時代を経験していなくても、どこか共感できるものがある。時代は違えど、若者が感じることは同じなのかもしれない。バブルという華やかさがある分だけ、物悲しさを強く感じるのかもしれない。やけにしんみりとした終わり方をする短編が多いような気がした。

■ストーリー

一九八一年三月。大学の合格発表のため遠く離れた西の田舎町から東京に来た「僕」。その長旅には同級生の裕子という相棒がいて、彼女は、東京暮らしの相棒にもなるはずだった―。ロング・バケイション、ふぞろいの林檎たち、ボートハウス、見栄講座…。「’80年代」と現代を行き来しつつ描く、一人の上京組大学生が経験する出会いと別れ。

■感想
時代は違えど、自分の青春時代に近いものを感じてしまう。大学生となり自由を謳歌し、変に背伸びし、思いっきり傷ついたりもする。作者と同年代の人が読めば、懐かしさでむせび泣くかもしれない。当時、青春の代名詞と言われたような数々のアイテムがでてくるので、そのあたりに思いいれがある人にもたまらないだろう。テレビ等でその存在は知っていたが”竹の子族”や”ボートハウス”や”ふぞろいの林檎たち”など、いかにもな名前が登場し、ああ、80年代なのだなぁと感傷にひたってしまう。

基本的に、すべての物語がなんらかの見栄や、若者特有のプライドのようなものを感じてしまう。本当は違うのに強がってしまう。どこか心にぽっかりと空間があるのを知りながら、必死でそれを見ないようにする。特に見栄講座がでてくる話では、思わず納得し、そして少し悲しくなった。幸せをどうやって計るかなんて考えたこともない。他人にどれだけうらやましがられるかが、幸せのバロメータという考え方は、かなり斬新だ。しかし、そう言った本人には…。結局幸せは計ることができない。なんだか少しホロリとくる作品だ。

すべてが作者の実体験にもとづくのかと錯覚してしまう。過去の回想から現代にいたり、そして過去のあの人物は今どうなっているかが語られる。私小説でないのはわかっているが、リアリティがある。いつの間にか大成功しているのではなく、いろいろと苦労をした結果、ごく普通の主婦になっていたり。過去はどうあれ、今は現在を生きるしかない。過去にブイブイいわせたいたあの人も、今はこんな風になりましたという、避けようのない現実を描いているのだろうか。

作者と同年代の人が読めば、なつかしさにむせび泣くことだろう。




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