天魔ゆく空  


 2012.9.4    希代の変人の物語 【天魔ゆく空】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

細川政元について知識はない。それでも、希代の変人が応仁の乱後の時代にどのように生き抜いたかを、胸を熱くしながら楽しむことができた。将軍を自在に操り、世を思うがままに動かした人物。教科書や歴史上では応仁の乱の影に隠れ、その後の戦国時代前に消えてしまう人物だけに、人の覚えは悪いだろう。それでも、知力、胆力すべてを兼ね備え、さらには変人として有名な人物であるならば、物語としてこれほど絵になる人物もいないだろう。坂本竜馬や織田信長など有名な人物の物語より、本作の細川政元のように、ひそかに面白い人物に焦点を当てた作者はすばらしい。ありきたりな物語ではなく、時代の雰囲気と、さらには男たちの影に隠れるように、女たちの生き様までも興味深く描いている。

■ストーリー

妖術を操り、空を飛び、女人を寄せつけず独身を通した“希代の変人”細川政元。応仁の乱後の混迷した時代に、知略を尽くして「半将軍」の座をつかみ取る。信長に先立つこと70年、よく似た人生を送り、戦国時代の幕を開

■感想
室町時代の細川政元という人物を知っている人はどの程度いるのだろうか。応仁の乱後、将軍を思うがままに操り、時代の寵児となった人物なのだが、誰もが知る有名人物というわけではない。応仁の乱を戦った細川勝元の子であり、その変人ぶりが幼いころのエピソードを含め描かれている。ある種、独特な考え方をもった人物として描かれており、その考え方や行動など、敵を多く作りそうだが、そのカリスマ性と知力により「半将軍」と呼ばれるまでになる。政元の視点だけでなく、周りの人物からの視点で政元が描かれることにより、その客観的魅力が余すことなく表現されている。

男たちの激しい権力闘争だけでなく、家を守るべき女たちのたくましい生き様も描かれている。日野富子から始まり、政元の姉に終わる女たちの物語。時代に翻弄され、政略結婚させられた先で、ただ自分の子どもたちを支えることだけを生きがいにした女たち。本作ではお家騒動がメインに描かれているため、必然的に当主となるべき子どもの母親は重要な存在となる。権力を求めるのが男ならば、女は家が現状維持できることをひたすら求めているようにも感じられた。時代に流された女たちの、不幸と苦労がにじみ出ている作品でもある。

変人でありながら、そのカリスマ性と奇妙さで皆を魅了する政元。その手腕はかなり強引であり、しびれる冷酷さがある。政元が祭り上げた将軍にすら恨まれ、細川の家を守ろうとする忠臣にも恨まれる。そんな中で自分の死期をさとる政元。歴史上の人物を物語として描くには、ある程度のヒーロー的な側面が必要なのだろう。政元の圧倒的な力と、他を寄せ付けない謀略の数々は、読んでいて爽快だが、最後の後始末をどうするかだけが疑問だった。本作では、歴史的事実にのっとり、なおかつ作者の想像力により政元らしい終わり方となっている。

歴史上の人物の物語を読むならば、まったく知らない人物の物語を読む方が、新しい発見がある。




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