2013.11.21 小市民的恋愛物語? 【秋季限定栗きんとん事件 上】
評価:3
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■ヒトコト感想
前作で別れることになった小山内と小鳩。本作では、それぞれ別のパートナーを見つけ、新たな学生生活を始めるのだが…。新キャラであり小山内の新パートナーでもある瓜野が、小鳩とキャラがかぶっている。小市民でありたいという欲求はないのだが、思考原理が同じだ。小山内は小鳩に似たような男を選び、小鳩は新たなパートナーを小山内と比較してしまい、物足りないと感じる。
なんだかちょっとした恋愛小説風ではあるが、甘い話やかゆくなるような恋物語ではない。基本は連続放火事件の謎を追い、学内新聞に書こうとする瓜野と、何やら怪しげな動きをする小山内。そして、それに気づく小鳩という流れだ。小市民感はここへきて吹き飛んでいる。
■ストーリー
あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。―それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…
■感想
新たな道を歩み始めた小山内と小鳩。二人がもう一度くっつくのかと思いきや、それぞれ別のパートナーを見つけ出す。小鳩の方は、ステレオタイプな女子高生であり、小山内とは正反対のキャラクターとして小鳩を戸惑わせる。ただ、皮肉なことに、より小市民的になっている。対して小山内は、何かよくわからない暗躍をしている。
前作の事件を引きずっているようでもあり、小山内の狼の部分がより強烈に表にでてきたのか。新聞部の瓜野が連続放火事件を追いかける過程で、小山内に対して疑問を持ち始める。誰が何を目的としての行動なのか、不明な部分が多い。
小鳩は、小市民であるために、当たり前の男女交際へ向け努力する。いつもの深読みを停止させようとするが、止めることができない。小鳩の余計な気の使い方というのは、普通の恋愛では当たり前に存在することなので、なんだか少し笑えてきた。
小鳩はなんでも先読みし、答えるのを抑えようとする。相手に対して気を使うことは正しい。が、その気の使い方が小鳩独特なのが面白い。こう書いてしまうと、恋愛物語メインのように思えるが、そんなことはない。小市民的な恋愛要素はほぼない。あるのは、ただ一緒にデートするという描写だけだ。
恋人同士の甘い語らいがない代わりに、連続放火事件についての考察が盛りだくさんだ。放火事件の目的は何なのか。小鳩と小山内だけが、何らかの考えを持っている。そうとは知らず、ひたすらスクープを追い求め走り回る瓜野。
瓜野の行動が的外れとはいかないまでも、小山内の操り人形と化しているようで、気の毒になってくる。小山内が暗躍するには、それなりの理由があり、その理由は必ず下巻で明らかになるのだろう。となると、あとは、小鳩と小山内の関係がどうなるのかが気になるところだ。
小市民的恋愛物語かと思いきや、そうはならないのがこのシリーズだ。
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