2013.11.9 薄れる小市民感 【夏季限定トロピカルパフェ事件】
評価:3
米澤穂信おすすめランキング
■ヒトコト感想
前作では、その徹底した小市民っぷりがすばらしかった。本作でも小市民的考え方は続いているのだが、ある大きな事件がメインとなっているため、前作ほど日常の小市民感はない。小山内スイーツセレクションという、甘いものの食べ歩きを続ける小山内と小鳩。小市民の日常としては正しいのかもしれないが、そこから繋がる誘拐事件によって、とたんに小市民感は薄れていく。
昔、狼だった小山内。昔、自分の能力をひけらかすタイプだった小鳩。ふたりの互恵関係により保たれていた小市民感に崩れるときがきた。恋人でもない、ただの友達でもない。複雑なふたりの関係が、本作の出来事により壊れようとしている。なんだか小市民的展開からはかけ離れた流れだ。
■ストーリー
小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは“小佐内スイーツセレクション・夏”!?
■感想
「シャルロットだけはぼくのもの」は、前作の雰囲気そのまま日常の小市民的展開だ。小山内に頼まれたケーキは3つしかない。小鳩をどうにかして2つ食べようと画策するのだが…。甘いものが得意ではない小鳩がシャルロットだけはおいしく感じ、小山内に内緒で2つ食べようとする。
なんとも小市民的内容だ。くだらないかもしれないが、小鳩と小山内の駆け引きは、まるで宝石が盗まれたかのような真剣味あふれる展開だ。最初からケーキは2つしかなかったと思わせる小鳩の仕掛け。なんともセコいが、このセコさが小市民的で良い。
第3章からは小山内誘拐事件への前ふりが続いている。小市民であれば、絶対に誘拐事件に巻き込まれるはずがない。過去の出来事の影響で小山内は誘拐されることになる。狼だった時代の小山内。強烈な復讐心は今も心の奥底にしまっている。
小市民的に日常のちょっとした謎を、おしゃれに解き明かすかと思いきや、予想外にシリアスでミステリアスな展開だ。ただ、殺人事件が起きるだとかはない。結局のところ怪我人が少しでた程度で終わっているのは、本作の流れに合っているのだろう。
小鳩と小山内の関係が大きく変わる流れが本作のラストに描かれている。そもそも小鳩と小山内の関係は何だったのか。お互いが小市民であるための互恵関係であったふたり。小市民化が崩れたとき、ふたりが別れるのは必然なのだろう。
高校生の男女が恋人でもないのに、スイーツの食べ歩きをする。不自然といえば不自然だが、小市民的ふたりの行動というのは、読んでいて心地良かった。それが崩れるのは少し悲しい。続編があることから、何らかのさらなる変化があるのだろうが、ふたりの関係が復活することを願うばかりだ。
束の間の小市民感は十分堪能できた。
おしらせ
感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp