少女には向かない職業  


 2011.9.23  少女の戦いの記録 【少女には向かない職業】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

少女の戦いの記録。義理の父親が飲んだくれで、嫌気がさしている少女がある行動を起こす。シチュエーションとしては青の炎と同じだが、物語の雰囲気や緻密さはぜんぜん違う。本作は、少女の想像力と、ふわふわと地に足がつかない不安定さが露呈しているようだ。文学的な香りも多少ただよいつつ、ぶっとんだ描写も良い。少女特有の、妄想なのか、それとも真実なのか。ゲーム友達の同級生のことや、母親との関係。地味で目立たないが、地元の有力者の孫娘の行動など、不安定さを強調するような出来事ばかりが起こる。虐待まではいかないが、追いつめられた少女の行動にしては前向きだ。かと思えば、バトルアックスを持ち出して、憎い相手を真っ二つにしようとする。この不安定さにしびれてしまう。

■ストーリー

あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した…あたしはもうだめ。ぜんぜんだめ。少女の魂は殺人に向かない。誰か最初にそう教えてくれたらよかったのに。だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけだったから―。これは、ふたりの少女の凄絶な“闘い”の記録。

■感想
いかにも作者らしいという雰囲気がある。どこか不幸だが、その不幸に悲観し自殺するのではなく、別の何かを見つけて前向きに生きていくような、そんな少女が主役だ。女子特有の、少しでも気を抜くと仲間はずれにされてしまうような日常。友達に気を使いながら、楽しくすごしていたはずの日々。大人からしても、この年代の少女たちの生活というのは、一歩間違えれば地獄のストレスが待っているほどの過酷なものだということは良くわかる。少女時代特有の、ぴりぴりとした雰囲気の中で、ある事件は起こる。

少女のちょっと不幸な生活の原因が酒びたりの義理の父親にある。憎き父親をどうにかしようと行動にうつす作品には青の炎がある。アル中親父の憎たらしさや、父親に対する怒りの思いは近いのだが、本作は成り行きにまかせた、ふわふわとした流れがある。気づけばアル中の父親は死に、少女は心に晴れない霧がかかったようになる。青の炎のように、良心の呵責だとか、いいようのないプレッシャーというよりも、知らず知らずのうちに入り込んだ異世界に恐怖するという感じだろうか。

「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」的な雰囲気があり、ラストの流れもそうなるかと思っていた。本作では爽やかさがない代わりに、救いようのない結末というのもない。少女に対しては厳しい現実なのだろうが、少女の不安感を増幅させる出来事の数々には、思わずうなってしまう。わりと予想外の展開が多く、ありきたりではない。この年頃の少女に苦労が多いのはよくわかり、何がそのときの大問題になるかもわからない。突発的に目の前に登場した悩みに、どうやって対処していくのか。少女の不安定さばかりが印象深い作品だ。

特徴ある一定の流れにそっているので、作者のファンならば安心して楽しめるだろう。




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