小学五年生  


 2011.8.28  いじらしい小学五年生 【小学五年生】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

小学五年生というのは微妙な時期かもしれない。相変わらず作者の作品は心に響く。方言に懐かしさを感じるせいもあるのだが、小学五年生というのがまたピンポイントだ。本作の中にあることでは、新しい学校で友達を作る苦労を、実際に自分が小学五年に味わっているだけに、しびれてしまう。親と出かけるのが恥ずかしい時期であり、異性を妙に意識する時期でもある。小さいころのように無条件に友達ができるわけでもない。山口県の方言が響くだけに、どんな物語であっても感情移入してしまう。また、子を持つ親となり、子どもの気持ちについても考えてしまう。本作のように時期を指定してくるのはずるい。必ず自分はどうだったかと考えてしまう。

■ストーリー

クラスメイトの突然の転校、近しい人との死別、見知らぬ大人や、転校先での出会い、異性へ寄せるほのかな恋心、淡い性への目覚め、ケンカと友情―まだ「おとな」ではないけれど、もう「子ども」でもない。微妙な時期の小学五年生の少年たちの涙と微笑みを、移りゆく美しい四季を背景に描く、十七篇のショートストーリー。

■感想
かなり短い短編が多数収録されている本作。小学五年ともなると、子どもなりのプライドやなんだかんだで、必要以上に相手を意識することがある。友達についても、異性のことについても、親に対しても…。そんな子どもの気持ちを、作者はまるで自分が小学五年生であるかのうように描いている。友達とへんな意地の張り合いをしたり、ちょっとした言葉の行き違いから喧嘩をしたり、新しい学校になじむためにいろいろと考えたり。いじらしいほど様々な策略を練る子どもの気持ちを、まさに子どもの目線で代弁している。

本作を読めば、誰もが小学五年生の気持ちになることだろう。大人たちの会話にしても、昔ならば意味のわからないことでも、小学五年ともなれば、理解できる。周りの大人たちの評判が悪ければ、それだけでその人に対する目が変わってしまう。小学五年というのは、それほど影響されやすく、また感じやすい年代なのだろう。作中の方言がほぼなつかしの方言なので、読むとその瞬間から自分の小学五年時代を思い出してしまう。そして、作者の描く物語に「ああ、そうだったなぁ」という感心の声を上げることになる。

「バスに乗って」を筆頭に、泣かせる物語もある。特に親や弟のことを考えるいじらしい小学五年生は、心に響く。もう子どもではないと思いつつも、まだ子どもの部分を残している。親や大人たちのちょっとした思いやりを敏感に感じたかと思うと、大人が想像できないような驚きの行動にでたりもする。家族のことを考える小学五年生というのには、泣かされてしまう。自分ができることを精一杯頑張るその姿に、心打たれてしまう。短いだけに、そのものずばりダイレクトに心に響いてくる。

読めば必ず小学五年生に戻れることだろう。





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