砂と霧の家


 2011.3.23  誰も幸せにならない結末 【砂と霧の家】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
幸せになりたいと願う人々が、いつの間にかとんでもない出来事に巻き込まれている。誰もが悪気があるわけではない。家を追い出された女。亡命したはいいが、ろくな仕事にありつけない元大佐。家族とうまくいかない保安官。すべてが悲しみに満ち溢れている。次々と起こる出来事が、必ず悪い方向へと向かっている。はじめは意味がわからない出来事であっても、その後、理由がはっきりと示される。脚本がとてもすばらしい。場面が変わるたびに、物語に大きな変化が訪れる。特に印象的なのは、亡命した家族たちだ。元上流階級だったはずが、いつのまにか貧困層へと落ちぶれ、何か上昇のきっかけを探している。すべての登場人物たちに感じる悲しみはそうとう強い。誰も幸せにならない結末が悲しい。

■ストーリー

亡き父が残した海辺の一軒家に住んでいる女性キャシー・ニコロ(ジェニファー・コネリー)。結婚生活に失敗し、夫に去られた彼女は、仕事もなく一人ぼっちで失意の日々を送っている。遠くに住んでいる母にはそのことを言えず、「幸せにしている」と電話で嘘をつくキャシー。そんなとき、たった数万円程度の税金未払いから、家を差し押さえられてしまう。後に、それが行政の手違いであったことが判明するが、すでに家は他人の手に渡っていたのだが…。

■感想
軍の手違いによって家を追い出された女。かなり災難だが、その後さらに災難が待っている。ひとつの家をきっかけとして、人々の思惑が激しく交差する。誰もがただ幸せになりたいと願っているだけだが、到底そこにたどり着くことはできない。すべての元凶であるのは家に違いないのだが、誰が悪いというのははっきりと言えない。しいてあげるなら、欲を出した亡命家族だろうか。家を転売することを目的として、家に居座る。ただ、亡命したとはいえ、セレブに返り咲こうというその気持ちが少しでも治まれば、結末は変わっていたかもしれない。

キャシーに言い寄った保安官も悲惨な目にあっている。ある意味自業自得かもしれないが、最後の悲しい結末の大きな要因といえるだろう。もともと壊れかけた家族を持ち、そこに現れた魅力的な女性に心動かされる。すべての登場人物たちは少しづつ歯車がずれていくことで、大きなずれとなり、最後の悲しい結末へと進んでしまう。中盤まではどういった結末になるのかまったく予想つかない展開だった。それが、後半になるにつれ怪しげな雰囲気と、悲しみだけが強く印象に残っている。そして、極めつけは、ちょっとした行き違いからとんでもないことになってしまう。

物語全体を通して、差別や金の問題などを強く感じるあたり、どこかクラッシュに近いように感じられた。複数のエピソードが絡み合うあたりも近い。そして、なんともいえない暗い気持ちになるのも同じだ。物語の展開のうまさはクラッシュだが、人をひきつけて放さない強さを本作は持っている。登場人物もシンプルで、目的や行動もはっきりしているだけに、クラッシュより混乱はしないかもしれない。見終わって明るく楽しい気持ちになれる作品ではない。気分が落ちているときに見るべき作品ではないだろう。

亡命家族のなんともいえない悲しい表情というのは、いつまでも目に焼きついてしまう。



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