水車館の殺人  


 2011.3.16  幻想的で怪しげな雰囲気 【水車館の殺人】

                      評価:3
■ヒトコト感想
十角館の殺人よりも幻想的で不思議な雰囲気の作品。水車館自体も現実味がないのだが、それ以上に登場人物たちに現実感がない。このことが、物語全体をおどろおどろしい雰囲気へといざなっている。水車館へ絵画を見にやってくる者たち。執事や美少女や、極めつけは仮面をかぶった主人が登場する。なんともいえない雰囲気になるのは当然だろう。読み進めていくと、ミステリの宿命だろうが、犯人を予想してしまう。当然その予想は近いところまでいくのだが、結末は驚かされるものだ。強引なこじつけではなく、未知のありえない科学的トリックでもないが、このオチはまったく思いつかなかった。コテコテのミステリ好きにはよだれがでるほどたまらない作品だろう。

■ストーリー

仮面の当主と孤独な美少女が住まう異形の館、水車館。一年前の嵐の夜を悪夢に変えた不可解な惨劇が、今年も繰り返されるのか?密室から消失した男の謎、そして幻想画家・藤沼一成の遺作「幻影群像」を巡る恐るべき秘密とは…!?

■感想
車椅子生活の仮面の当主と幼な妻である美少女。資産家で執事を引き連れ水車館で生活する。まず、この設定だけでミステリマニアはよだれをたらすことだろう。現実的にはほぼありえない状況と、キャラクターなのだが、それが物語りの非現実感を高めつつ、幻想的な雰囲気へと昇華している。そのため、物語全体に漂う陰鬱な雰囲気すらも、幻想的なイメージを増大させる役目をはたしている。過去と現在をくり返す形なので、だんだんと二つの出来事がリンクしていく。単純な回想形式にしないことで、物語に深みがましている。

水車館の小難しいカラクリについては正直良く分からなかった。ただ、このことがミステリの決定的なトリックにはなっていないのがよかった。もちろん、重要な要素ではあるのだろうが、犯人がはっきりした際の衝撃は水車館のカラクリとはほとんど関係がなかった。特殊な場所での、強引な抜け道的なオチというのは良くあるだけに、それがメインのトリックとなると興醒めしてしまう。キャラクター一人ひとりのインパクトは当主とその幼な妻に比べると弱い。山奥の館が嵐に見舞われて孤立するというのも、ありきたりだ。そのあたり、ミステリファンならば喜ぶ部分なのだろうが、またこのパターンかと思ってしまった。

全体の怪しさがすばらしく、犯人は予測できるが、犯人がどこにいたかということはかなりの衝撃である。少しズルいような気もするが、まさかという思いは強い。怪しげな館で繰り広げられる暴露合戦。探偵役の島田のキャラが十角館を読み終わってからだいぶ期間が空いていたので忘れていたが、本作ではそれほどキャラ立ちしているようには感じられなかった。島田やその他のキャラうんぬんよりも、全体の怪しげな雰囲気と、あっと驚くトリックに酔いしれるべき作品だろう。十角館が好きな人であれば、必ずはまることだろう。

古い作品だが、犯人が判明した際の驚きにはかなりのものがある。




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