すいかの匂い  


 2012.2.23  ヘンな懐かしさがある 【すいかの匂い】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

少女が主人公の短編集。夏を感じさせる短編ばかりが集められた本作。夏の暑さよりも、不思議な気分にさせられる。ちょっと頭のおかしな人や、意地悪な同級生、親戚のおじさんや、近所のお姉さんなど、あたりまえに子供が感じる夏ではなく、ちょっと変わった日常が描かれている。ただ、普通ではないはずなのに、誰もが経験したことがあるような奇妙な懐かしさがある。重松清的なまっとうな?子供らしい子供ではない。どこか異質な少女が主人公となり、変な人や変わった友達、そして恋とはいえないほど淡い気持ちが描かれている。女性であれば、かなり共感できるだろう。男であっても、変な懐かしさがある。同じ経験はしていないはずなのに、まるで自分が主役の少女になった気分になる。

■ストーリー

あの夏の記憶だけ、いつまでもおなじあかるさでそこにある。つい今しがたのことみたいに―バニラアイスの木べらの味、ビニールプールのへりの感触、おはじきのたてる音、そしてすいかの匂い。無防備に出遭ってしまい、心に織りこまれてしまった事ども。おかげで困惑と痛みと自分の邪気を知り、私ひとりで、これは秘密、と思い決めた。11人の少女の、かけがえのない夏の記憶の物語。

■感想
子供らしい子供の物語ではない。ちょっと難しい年頃の少女らしい、変わった雰囲気を持ち合わせている主人公たちだ。そんな中で印象に残っているのは「蕗子さん」だ。近所に住むお姉さんが、いじめられた少女に対して適当な復讐をアドバイスする。子供から見た大人の奇妙さもあるのだろうが、さらに輪をかけて蕗子さんの不思議さがある。さっぱりした蕗子さんの行動を読んでいると、何かしら意味があるのだろうが、その行動になんだかよくわからない潔さというか、男っぽさを感じてしまう。近所に住む年上の人に対する、よくわからない心情が伝わってくる作品だ。

「ジャミパン」は、叔父が父親がわりで母親に育てられた少女が主人公だ。何かにつけ「たいした女じゃない」だとか「ろくでもない男」と陰口をこっそりたたく母親。叔父の婚約者を見て少女が呟くあたりは、まさに親子だと思える場面だが、その後の母親の対応が印象的だ。少女からすれば、大人はよくわからないと思うだろう。アンパンやクリームパンよりもランクが下がるということで、ジャミパンという名前をつけたり、突拍子もない母親ではあるが、えたいの知れない説得力と力強さがある。これが、子供から見た大人の印象なのだろうか。

「薔薇のアーチ」は対大人ではなく田舎の子供が相手だ。いじめられた少女が夏の間だけ都会から田舎へとやってくる。少女は田舎の子に都会のすばらしさを自慢する。誰もが共感できる部分だろう。自分が辛い状況にあるということを隠しながら、都会生活を自慢する。本当の自分を隠しながら、あることないこと話続ける。子供ならではの、変なプライドと相手が手放しで羨ましがるその状況に気持ちが高ぶるのだろう。少女ではなく、大人として読んでも共感できるだけに、心の辛さはよくわかる。

誰もが一度は経験した、子供時代の不思議な気持ちを思い出すことだろう。




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